勇者達の翌朝(旧書)

□旧世代 守護者の降り立ち
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「これがあんたが守護する勇者。ホプラス・ネレディウス。20歳。コーデラの神聖騎士。」
連絡者の生意気なちびすけは、鏡玉を一つ出した。真っ直ぐな事が分かる程度の長さの黒髪、穏やかな顔の青年が浮かぶ。勇者候補だが、どっちかというと、神学者に向いていそうな清涼感のある人相だ。ラッシル系に東方系の血が少しまじっているらしく、やや童顔で、砂のような肌色と、黒に近い蒼い目をしている。
「神官?コーデラの神官は女性しかなれないんじゃ。」
「どこに耳がついてるのよ。神聖騎士、正式に訓練を受けた、魔法剣のエキスパート。」
だったら、単に魔法剣士と言えよ、と思ったが、口には出さなかった。
「戦災孤児だけど、水魔法の能力を買われて、騎士養成所に入る。文武両道に秀で、常に全科目主席。卒業後は騎士団に入って、本来ならエリートコースまっしぐら。」
「今は冒険者ってか?結構いい男だし、原因は女か?」
「…その甲斐性があれば、まだましだったかも」
「は?」
「こっちの話よ。そら、その横にいる金髪を見て。原因。」
ああ、やっぱり女か。と思ったが、よく見たら男だった。顔だけ見てれば間違うが、場所が風呂場らしく、ホプラスよりは低いが、すらりとした高い身長と、細めだが、鍛えて引き締まった剣士の全身が見える。色白の肌、ガラス玉のようなオリーブグリーンの目。純金色の金髪は、男性に使うのは何だが、古典的コーデラ美人の特徴だ。
「ルミナトゥス・セレニス。18歳。剣士で火魔法が得意だけど、魔法剣は使えないわ。彼はホプラスの幼馴染みで、故郷の町が最初の複合体に襲われた事件で、八つの時に生き別れ。13の時に再会。最初は冒険者ギルドの団体部にいたけど、14の時に独立。ホプラスは一緒に行くために、騎士を辞めようとしたけど、騎士団長の計らいで、身分は騎士のまま、ギルドに貸し出し。」
「同性愛者の勇者コンビか?一昔前の流行りじゃないか。最近はオーソドックスが主流だと思ってたが。」
「…ルミナトゥスはラーリナ・ライサンドラの相手よ。ホプラスはディアディーヌ王女の方。」
鏡玉の中では、ホプラスが、「もう出るのかい、ルーミ。ちゃんとあったまったかい。」と、友人の背中に声をかけていた。ルーミは「火魔法使いはのぼせやすいんだよ。しってるだろ。」と答えて鏡玉の視点と共に脱衣所に。
そこに、女性がいた。長い黒髪に、ラベンダーブルーの切長の目。色白のラッシル系だが、どことなく国籍不明の神秘的な雰囲気があった。美術品のような、完璧な容姿をしている。
「なんだ、覗きかよ、ラール。」
ああ、この女性がラーリナ・ライサンドラか。ラッシルの皇女の側近だが、始祖の烈女王エカテリンの血を引く、宿命の女性。実は今の皇帝の兄の孫娘にあたる。今回の計画の要の一人。
「服を持って来たのよ。入ってるうちに置いとけばいいかと。」
「エスカーに頼めばよかったじゃないか。」
「エスカーはディニィ姫達と、お茶よ。邪魔するほどの用事じゃないし。たかだか、あんたの服くらいで。」
鏡玉がもう一つ。プラチナブロンドの巻き毛に、ぱっちりした青い瞳の、可愛らしい女性が、優しく微笑みながら、傍らの緋色の髪の少年のカップに、お茶を注いでいた。少年の瞳は、お茶の色を写したアンバーだった。普通、赤毛は色白が多いが、彼は特徴的な赤銅色の肌をしていた。
「ラーリナとディアディーヌ姫は分かるわよね。先に説明しておいたし。ラーリナは風魔法と飛び道具で戦うわ。旋風のラールと呼ぶ人もいる。皇帝の命令でディアディーヌ王女の護衛をしているわ。ホプラス達とは数年前からの知り合い。王女は、聖魔法の最高位の術まで取得している、現在、たった一人の神官。回復役ね。」
ブロンドの女性が姫のようである。コーデラの第一王女。兄の死により、本来なら第一王位継承者だが、コーデラ王家では長女は独身原則の神官になる慣習があり、既に結婚している次の妹の義父が野心家なため、立場が微妙な物となっている。だが彼女は、姉妹の中で唯一、始祖の聖女王コーデリアの血を持っている。計画のもう一つの要。
「横の子はアプフェロルド・オ・ル・ヴェンロイド。15歳。年のわりに子供子供した外見だけど、これでも宮廷魔術師の一人よ。なんと全属性の最高技まで使えるわ。暗魔法も基礎だけならいける。予想外のギフトよ。南コーデラの名門貴族の子だけど、ルミナトゥスの種違いの弟になるわ。エスカーって呼ばれているのは、庶民時代の名前がエスカラルドだからよ。あの髪と目、肌の色はヴェンロイド家の特徴。」
種違いを差し引いても、ルミナトゥスとはにていなかった。強いて言えば、口元から顎のラインくらいか。
その口元に菓子がついているのを、姫が優しく指摘する。澄まし顔の少年は、照れてすぐ拭った。
この優雅な可愛らしい女性がホプラスの相手か。姫と騎士、王道だな。だが、しかし。
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