勇者達の翌朝(旧書)

□融合の後で
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旧書「融合の後で」1の1

各ワールドには、「バランスの秤」と呼ばれる、現在のワールドの状態を知る、虹色の球体があり、それらは超越界で管理されている。バランスのよい状態だと、はっきりとした虹の七色に輝いているが、良くない状態だと色が薄い、または濃くなったり、一色が強調されたり、最悪は色が消えて白や黒になったら死滅する。
バランスを調整するのは計画者の仕事だが、直接介入が必要な時は、俺達守護者の出番となる。
さて融合後、連絡者がワールドに降りて、俺、すなわちホプラスと直接会話したのは、一度きりだった。
「端から見ると、空中に向かって話し掛ける、危ない人だからね。」
羽虫のようにブンブンと、ちびすけは文句を垂れていた。
俺はまず、彼らが「黙っていたこと」について、文句をいった。今までどんなに機会を作り、出来る限り誘導しても、ホプラスはディニィを口説こうとしなかった。この二人さえ何とかなれば、若い男にありがちの対抗意識で、ルーミとラールも何とかなるかもしれない。そう思って努力した、俺の苦労はなんだったのか。
しかし連絡者は、しれっと、
「言ったら、あんたは諦めるでしょ。ただでさえ、ディニィがルーミの方を気に入ってるようだって、及び腰だったじゃないの。」
と言い放った。
「こうなったら仕方ないわ。ラールの方は、キーリとかいう地味顔に任せて、ディニィはルーミに任せる。あんた、くれぐれも余計な事はしないでね。生殖細胞の遺伝情報が空になっただけで、能力がなくなった訳じゃないんだから。」
「余計な事って…」
「レイザン王のようになったら困るって事よ。あんたが前についてた。」
彼は別ワールドで前に担当してた勇者だ。能力は申し分なく、王者としてもそこそこ立派なもんだったが、女好きの少年愛好者で、パーティー全員に手を出しては、トラブルを起こしていた。彼が王になって、相思相愛の王女と結婚したあたりで、守護は終わりで引き上げたが、風の便りに、その愛する妻に暗殺されたと聞いた。
あの時は融合せず、通常通りに、背後から道を提供するだけだったが、今と違って、守護中は、休暇も取らずに、毎日べったりついてなくてはならない、という、滅茶苦茶な勤務体系だった。そのかわり、守護期間は短かったが、あれは余計な知識ばかり増えた、ストレスの溜まるプロジェクトだった。
「はあ、でも、ホプラスは惜しかったわね。顔もよし、性格よしの神聖騎士、公にできないけど、血筋もいい。姫の相手にはぴったりだったのに。ルーミも顔がいいから、インパクトはあるけど、彼は傷がありすぎるし。まあこの際、種の質は妥協するとして。」
「…何だよ、それ。だいたい、傷って、ルーミの責任じゃないだろ。」
思わず言い返した。連絡者や計画者が、ワールドの人物達を道具扱いするのはいつもの事で、普段は聞き流していた。だが、この時は、本当に腹立たしかった。
「ルーミ、ね。」
連絡者はため息と共に、わざわざ繰り返した。いつもは報告の時はルミナトゥスと呼んでいるからだ。
「まあ、とにかく、計画者はホプラスが今、抜けるのは困るって事だし、融合してしまったものは仕方ないし、取り敢えず、モンスター始末して、ワールドに平和をもたらすのはしっかりね。」
「言われなくてもやるよ。あと少しだ。」
俺のやる気を確認したのか、連絡者は、飛んで消えた。
入れ違いに、背後で音がした。町外れの茂み、間を縫って音がする。当然、剣を構えたが、現れたのはルーミだった。
「こんな所にいたのか。探したよ。」
「探したって、僕を?」
「そうだが…変なこと、聞くなあ。」
何だか楽しくなってきた。彼が、俺を、ホプラスを探しに来てくれた、それだけの事が嬉しい。
「お前一人か?話し声が聞こえたみたいだが。」
「え、まあ、なんというか、羽虫を追い払ってたんだ。」
これを聞いた連絡者が、地団駄踏んでるだろうなと、思うと小気味よかった。
ルーミは特に気に止めず、自分の用件を切りだした。エスカーに相談されたことで、俺の意見も聞きたいという事だ。
その時、当のエスカーが、茂みの間から、顔を出した。
「やっと見つけた。こんな所で何やってるんですか、二人きりで。」
「…その手の冗談は、よせと言っただろ。兄の俺で遊ぶんじゃない。」
何時もの会話も、この耳で直接聞いたせいか、どきりとした。ルーミはそんな俺の心境なんて考えもせず、エスカーを促して用件をしゃべらせた。
「火竜の眼が、暴発した時の事なんですけど、あれ、最初、あの兵士の人、姫に渡そうとしてたでしょう。」
炎のエレメントの複合体、あれの宿主はファイアドラゴンだった。素で強いドラゴンに、さらに得意属性のエレメントが加わったのだから、倒すには工夫がいった。幸い、場所が平地だったので、水や風の時と違い、人数が投入できた。
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