勇者達の翌朝(旧書)

□土の鍵
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旧書「土の鍵」1

エスカーの師匠、宮廷魔術師の老師ティリンスからは、ほどなく連絡がきた。連絡装置ではなく、手紙でやりとりしたわりには早かった。
カオストの話についてはすでに調査中である事と、次の土のエレメントは、ラッシルのアルメル自治区の近郊の、「琥珀の森」の近くだという。
ラッシル人のラールによると、本国の外れではあっても、有名な観光地だったので、コーデラから直接入れるルートがある、と言う。
「今はかなり寂れているけどね。もともと宝石の産地で、火山灰の土壌を活かした農業と温泉もあって、それに伴う観光施設で賑わってたんだけど、鉱山近くの火山が爆発して、コーデラ側のルートが、一時、塞がれていた時期があったの。その間に、別の鉱山が発見されて、開発はほぼ止められた。ルート周辺の住民の訴えで、整地はしっかりされたけど、通る人があまりいなくなったわ。鉱山の名残で、転送装置はかなり良いのがあるけど。」
俺たちは、鉱山内部に直結する転送装置のある街にむかった。国境を越えるので、モラルチェック(飲酒可能年齢や裸体許容範囲、その他禁止事項の確認)を済ませ、いざ転送装置を借りようとした時、町長が、「その前に鍵をとってきてもらう必要がある。」と言い出した。
型通りに「申し訳ありません。最初からお話しすべきでした。」と言ったあと、「事情」の説明に入る。
ある日、マントとフードで、完全に顔も姿も隠した男が、突然やってきて、前町長の未亡人を人質に、転送装置の鍵を奪い、それを町外れの祠に隠した。人質は無傷で返したが、本人は姿を消した。どうやら、琥珀の森の奥地に、自分の転送魔法で向かったようである。
「何とかしてくれ、と一年近く訴えているのですが、後回しにされ続けまして。『鉱山は閉山しているから、緊急性はないだろう。』と。整地で予算がなくなったらしいのですが。我々も困っているのです。」
鍵の隠された祠は、もともと街の唯一の魔法名所でもあった、「試練の祠」で、植物系で幻覚能力のあるモンスターを、うまく制御して「アトラクション」にしていたが、事故の影響もあり、放置されて、今は誰も近づかない、と言う。
「風の時と、似たパターンだな。」
ルーミは、人としての意思が強くのこっているうちに、自ら山奥に身を隠した、風の宿主の事を思い出したのか、言いながらため息を軽くついた。
「でも、変ですね。転送魔法は風魔法、土のエレメントの宿主に、わざわざ風魔法使いを?もし王都の魔導師なら、師匠、この前の連絡で、名前くらい言って寄越しても良さそうなものなのに。…惚けてるんだから。じーさんは。」
エスカーはぶつくさと言っていた。ディニィは、
「エパミノンダス師の不正が発覚した時に、追求を恐れて、自主的に辞めた人達がいるから、そのうちの一人じゃないかしら。エスカーと直接面識がないから、言わなかったのかもよ。」
とフォローした。
人間との複合体は、そのエパミノンダスの置き土産だった。彼自身は東方の島国に逃げて、そこで死んだが、弟子達は生き残り、宮廷から退いたものの、中には有力者に、個人的に雇われている者もいる。カオスト公に仕えているベルセスもその一人だ。
しかし、彼は連絡者によると、小心の俗物で、錬金術研究と称して小金をせしめているだけだから、ノーマークという話だった。
「でも、何だか今までと勝手が違いますね。いかにも『複合体がいます』って感じの問題もないし、噴火は、その怪しい男がくる、かなり前の事なんでしょう。」
キーリが疑問を投げ掛けた。魔法院の探索に間違いはないだろうが、複合体としては、弱すぎるように思う。火は魔法攻撃力が、風は物理攻撃力と素早さが、エレメント特性で強化されていた。戦闘力の高くなるタイプを続けて倒したせいで、弱く感じているだけだろうか。
仮に、風魔法使いに土のエレメントを複合させたとして、力を押さえる事は可能なんだろうか。エスカーに尋ねてみると、
「外側から強い属性の魔法をぶつけて、押さえつけるよりは楽かもしれないけど、やる意味がわからない。だって、力を増幅するために、複合するわけだから。」
と返事が返ってきた。
エスカーは、また手紙を師匠におくった。エスカーは通信ですませたがったが、相手が忙しく、なかなか捕まらないので、手紙にした。
とりあえず、先にさっさと鍵を取りに行く事にした。が、これが「さっさと」とは、済まなかったのである。
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