勇者達の翌朝(新書)

□想い出の丘
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新書「想い出の丘」1の1

次の目的地に行く前、ラズーパーリの、ホプラスとルーミの墓所に寄った。
一応、自分の墓でもあると考えると、妙な気分だった。遺体は「残らなかった」ので、自宅に置いていた、予備の騎士の制服が、代わりに棺に納められた、と聞いている。
場所は、二人が子供時代を過ごした、丘の上の教会の跡地だ。
教会には神と聖女コーデリアがいるが、ホプラスとルーミの墓は一般の墓地とは離れた、建物の中にあった。表に、棺から写したという、墓碑銘が、パネルにして飾ってある。
「神聖騎士ホプラス・ネレディウス。勇敢にして聡明な騎士の中の騎士。生まれ、育ち、そして救った、『紺碧の真珠』の地に眠る。かけがえのない、唯一の人の魂よ、聖女コーデリアの恩恵ともに安らかなれ。私達は、彼を忘れない。」と刻んであった。たぶん、考えたのはディニィだろう。気恥ずかしいが、気持ちが嬉しかった。
しかし、ルーミの墓碑銘は「勇者ルミナトゥス・セレニス。彼の意思により、生まれ育った土地に、総てを分かち合った、幼馴染みと共に眠る。」だけで、国王とは書かれておらず、在位年の記載もない。
伝わっている話はこうだ。
テスパンは、最初は遺体を断頭して、城壁に吊るそうとした。寄せ集めの部下の中に、少し目端のきく者がいて、人気のある王だったのは確かなのだから、遺体を粗末にしたら、後がやりにくいですよ、と進言した。テスパンは、それなら王都の死刑囚用の墓地に入れておけ、と、進言した部下に丸投げした。その部下は、火魔法使いだったルーミを、当時の流行りに乗っ取って火葬にしたが、死刑囚用の墓地に入れるのはためらい、遺灰はしばらく預かっていた。ある日、どこからともなく現れた男性が、遺灰を金で買い取りたい、と言った。部下は、遺灰を渡し、その金を持って、テスパンに見切りをつけて逃げた。
謎の男性は、遠路はるばるラズーパーリまで遺灰を運び、ホプラスの墓所を管理する聖職者に、埋葬を依頼し、そのまま姿を消した。墓碑銘は、彼が考えた、という話だ。
逃げた部下、謎の男性については、名前もわからない。連絡者からの話にもなかった。部下はテスパン失脚の今となっては、表舞台に出るわけにもいかないが、後に捕まった連中の中に、「直ぐに見切りをつけて、逃げた奴等は多かった。最初の話と違い、すぐ金にならない事がはっきりしたからだが、中には、王を殺すなんて聞いてない、という連中がいた。特に遺体の扱いでもめた。」
と証言した者がいた。
謎の男の話は、彼等の占拠していた宿の職員、墓地の管理者、火葬場の責任者から、証言が得られた。ラズーパーリに着くまでの宿場や、埋葬地の管理者達の話からすると、恐らく騎士の誰かだ、と考えられていた。
たぶん、アリョンシャではないかと思う。確認はしていないが。あと思い付くのはガディオスだが、彼は死亡している。
埋葬の話が出た頃、テスパンの基盤は、急に崩れた。最初は新秩序を打ち立てる、と言って、一部の無軌道な若者を中心に支持者を集めていたが、彼の言う新秩序とは、愛人の王女イスタサラビナ姫を暫定女王にして、それから彼女と結婚して(彼女は当時カオスト夫人で、今も離婚はしていない。)子供を作り、自分の系列に王位を移すことだった。今、カオストがクラリサッシャ姫で計画している事と似ていた。しかし、公爵であるカオストがやるのと、二代目伯爵がやるのとでは、当然、周囲の反応もちがう。カオストでさえ、それで支持者を減らしているのだ。
初代テスパン伯爵は、先々代(ディニィの祖父)の「最後の公式寵姫」だった、テスパン夫人の弟で、姉の「功績」により、貴族になった。結婚はしていたが、早くに妻に先立たれ、姉にも子供はなく、跡継ぎには、遠縁の兄妹を、幼いうちに引き取った。妹の方は、成人する前に病死したが、クーデターを起こしたテスパン伯は、その兄の方にあたる。義理の伯母にあたるテスパン夫人が、イスタサラビナ姫の子供の頃の教育係だった縁で、姫とは親しかった。一事、噂もあったが、姫は当時の騎士団の副団長の、ベクトアルの甥と婚約した。これは真面目な恋愛で、騎士だった彼が、式典で姫の護衛をした縁で、二人は祝福されて婚約した。
だが、結婚前に、彼は自殺してしまう。遺書がないため、理由は公には不明。俺も聞いてないが、どうやら、先代のテスパン伯は、少女愛好家で、まだ子供だった姫が、テスパン家と頻繁に交流があったころからの関係だったらしい。姫の結婚を阻止するため、それを教えたのではないか、と考えられていた。
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