勇者達の翌朝(旧書・回想)

□三日月の都
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旧書「三日月の都」1の1(ホプラス)

コーデラ王国は、唯一の全能神「ユーザース」と、その最後の代弁者である聖女コーデリアを信仰する「デラコーデリア教」の発祥の地とされる、王都コーデラ(ヘイヤント説もあり)を首都とする「聖王国」だ。
デラコーデリア教の前身はアルコーデリア教と呼ばれる。現在はコーデラの「正教会派」、ラッシルの「北方派」、その他「東方派」「原典派」「列島派」と様々な派閥がある。一神教だが、地水火風の四大精霊の古い信仰の取り入れや、ラッシルの烈女王エカテリンの行った宗教改革の内容を含むかどうか、聖魔法の神官制度があるか、等で、制度や聖職者の位置付け等が異なるが、聖典は共通となる。
コーデラは、制度上は政教分離をとっている。教会の紋章は三日月とオリーブの実、王家の紋章はツルバラとオリーブの葉、騎士団はオリーブの冠、魔法院は雛芥子の花とオリーブの葉となっている。
ラッシルと異なり、異民族の自治領はなく、狩人族の土地のような場所でも、分類上は、王家か大貴族の所有となる。自治を認めているかどうかは、領主による。
政治は議会制で、大貴族(王家から重要な土地を貸与されていて、かつ一定以上の私有地を所有)と市民代表(騎士団長、一定以上の宮廷魔術師、高位の聖職者や学者など、特定の地位にある者達。地方在住者も王都の市民権が与えられるため、こう呼ばれる。)による議会の上に、王が君臨している形になる。
王家から土地を与えられず、私有地だけをもっている地方貴族(エスカーのヴェンロイド家など)や、土地の有無によらず、爵位の低い下級貴族は、原則議会に入れない。ただし、エスカーのように、地方貴族だが宮廷魔術師、といった場合は、市民代表としての参加は出来る。
現在の国王はクレセンティス12世で、他界した王妃との間に四人の子がいた。長男クリストフ(クリフト)、長女ディアディーヌ(ディニィ)、次女バーガンディナ(ガディナ)、三女イスタサラビナ(タッシャ)である。長男クリストフは死亡したため、現在の第一王位継承者はディニィになるが、神官長との兼任はできないため、どうなるか展開の読めない部分がある。バーガンディナ姫の舅にあたるカオスト公は義理の娘(夫にあたる息子は故人だが、その弟との再婚を計画中)に、国王の叔父にあたるザンドナイス公はディニィ(独身の神官を降りて、結婚する前提)に王位を継がせたがっている。
ディニィ自身は、そういう「曖昧な部分」を「利用」し、自ら複合体を倒す旅に出ている。

王都に「帰還」する前、僕達は、ナンバスの家に帰宅した。ラールに「さらわれた」ままだったので、本格的に長期に渡って留守にする準備をするためだ。
一応、ギルドの仲介で借りてる家になるので、管理委託を申請したり、各種配達の停止なども行う。
滞在は五日程度だが、最終日は王都からエスカーが迎えに来て、泊まっていった。その前の日は、ヘイヤントで、市の最大級の夏祭り・「ジオン祭」(古代宗教の祭りだが、現在は伝統行事として残っている)があり、ルーミと二人で行ってきた。昼は炎天下の中を、楽隊や人形を乗せた30騎余りの山鉾を、手動で引きながら市中を巡行し、夜は三体の古代神の輿を肩に担ぎ、昼とは異なるルートで、これまた市中を巡る。
エスカーもどうせなら、祭りの日から来ればいいのに、と言ったら、前に一度、前夜祭に来て、熱射病で倒れた、と答えがかえってきた。
「それに、あんまりお邪魔するのも、新婚家庭に乗り込むみたいで、気が退けまして。アリョンシャが、『三年以上なら既に新婚とは言えないから、気にしなくても』と勧めてくれたんですが。」
「お前、兄貴をネタに、その手の冗談は寄せ。」
僕は笑うしかなかった。ギルドメンバーがからかって、「愛の巣」と言うことがあり、聞き流していたが、今の僕の耳には痛い。
「そういえば、教会に引き取られた最初のころ、僕と、兄さんの部屋、一緒でしたね。夜中に目をさまして、兄さんがいないと、探しに、よく、ホプラスさんの部屋に行きましたよ。」
「しょうもない事を覚えてるなあ。」
「今は一人でも眠れるんですね。大人になりましたね、兄さん。意外です。」
ルーミがエスカーを小突き始めたので、話題を変えるため、、アリョンシャとガディオスと、エスカーが知り合った切っ掛けを尋ねてみた。
宮廷魔術師になって最初の日に、王宮が広くて道に迷っていたら、新人の騎士が案内してくれた。それが、ガディオスとアリョンシャの二人だった、そうだ。
「ディニィとも、その時に知り合ったのか?」
「姫とは、僕が魔法院に入って直ぐに、神殿の庭でお会いしました。道に迷ってて。」
ルーミが、迷子か、泣いてたのか、とからかっていた。
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