勇者達の翌朝(旧書・回想)

□プラチナの林檎
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旧書「プラチナの林檎」1の1(ルーミ)

18の夏。俺とホプラスは、若いが、仕事ぶりの硬い冒険者コンビとして、そこそこ名を売っていた。
あるクエスト。貴金属の鉱山で、モンスターに化けた泥棒が出た。最初はモンスターだと思ったのだが、捕らえてみれば人間だった。
クエスト自体は簡単なものだったが、鉱山のある土地は険しく暑く、また、現地の警察がギルド嫌いで、犯人の引き渡し(人間の犯罪者の場合は、最終的には警察に引き渡す)に手間取り、ギルドに報告にもどった時には、嫌な疲れ方をしていた。
ホプラスがクエスト終了手続きを取っているあいだに、俺は顔馴染みのギルドメンバーに捕まった。
「おい、ルーミ、これ、お前のことじゃないか?」
王都から尋ね人チラシがきていた。

《名前:ルミナトゥス
性別:男性
姓:不明
年齢:17〜8
身長・体重は不明
髪:金髪〜明るい茶色
目:緑系
系統:北西コーデラ系
魔法:不明
出身地:ラズーパーリ
心当たりの方は、連絡して下さい。
王立魔法院内
宮廷魔術師アプフェロルド・オ・ル・ヴェンロイド男爵


渡してくれた男は、俺より明るい金髪で、目はグレーに近い、薄いブルーだった。呼び名はパルミィだが、本名は、たしか、発音しにくい、長たらしい名前だった。最北系というやつだ。
「最初、俺の事かと思ったが、魔法院に知り合いなんていないからな。お前のほうが、条件にに近いだろ。」
確かにそうだが、俺も、魔法院なんぞに知り合いはいない。
この前、ホプラスに似たような尋ね人があって、湖畔のオッツまで出掛けたら、「噂の美青年コンビを一目見たい」という、暇人の道楽だった。
ホプラスが、帰るよ、と俺を呼んだので、チラシをポケットに突っ込み、後を追った。そのまま忘れた。
それから、しばらく。
久しぶりに、ラールから連絡があった。頼みたい事があるから、オッツの湖畔の港まで、来てくれ、と言われた。連絡を受けたのはホプラスで、即引き受けていた。
「何だよ、俺に断りもしないで。」
と、俺は文句を言った。
「何だ、ラールだよ。梅の季節以来じゃないか。予定もないし。いつも、率先して引き受けるじゃないか。」
ホプラスは、探るように、俺を見た。やばい。
「何か、かくしてるだろ。」
「い、いや、別に。」
「ラールに、何かされたのか?」
「どういう意味だ、俺は男だ、俺がしたに、決まってるだろ!」
「…ほぉ。やっぱりなあ。」
ホプラスの目が座る。結局、白状させられた。
梅の季節、ラールに、俺たちの仕事を手伝って貰った。大成功で、三人とも上機嫌、夕食を一緒に取り、俺とラールは、名物の梅酒を飲み比べ。ホプラスは、アルコールなしの梅ジュースを飲んでいた。俺はラールには負けたが、機嫌よく酔った。ホプラスが、酔った俺を部屋に連れていこうとしたが、その時、皿をひっくり返した子供がいて、少し手を怪我したと、泣いた。ホプラスは、その子に回 復をかけた。
ラールが、
「歩けるから、連れていくわ。端の二人部屋よね。」
と、一人で部屋に連れていってくれた。
ドアの前で、お礼を言うついでに、ラールの唇に。
「…そしたら、『お子様が、酔ってするようなことじゃないでしょ!』と、頭をこう、両側から、拳でぐりぐりと。」
それで、もうしません、と叫んでいた所に、ホプラスが戻ってきた。どうしたんだ、とたずねる彼に、「酔いざましをね。」と、ラールは微笑み、自分の部屋に行った。
翌朝早く、俺達が起きる前に、ラールは発っていた。
「だいたいさあ、あれくらいで、怒らなくてもいいじゃないか。」
「…お前、それ、仕付けられたんだよ。」
そう言われると、当たってるだけに、なんだか、悔しい。
そうは言っても、別に、ラールをそういう意味で好きなわけじゃないし、ラッシル人はコーデラ人と比較して、あまり家族でもべたべたしないし、ちょっとは悪かったかな、と反省しかけた時だった。
「まあ、一緒に謝ってやるから。」
とホプラスが、真面目に言ったので、
「何だよ。」
と睨み付けた。
「だって、お前の仕付け、僕の責任だろ。大丈夫、ラール、別に、気にしてないと思うよ。ほら、あれだ、仔犬や仔猫みたいな。」
ほんとに、真面目に言ってる所が、質が悪い。大体、偉そうに言うけど、
「お前、そもそもないじゃんかよ。」
と言ったら、並べようとしてた、昼飯の皿を、取り落とした。図星かよ。
「ない訳じゃ…」
「ガキのころの、身内親戚、父さん、俺、エスカーなんかは、無しだぞ。」
「…養成所時代だよ。」
「ボランティアの子供もなし。」
「じゃなくて、ガディオス達と、青蘭亭で食事していたら、店の女性が、具合がわるくなって倒れかけた。助け起こしたら、仮病で。」
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