勇者達の翌朝(旧書・回想)

□狩人族の協力
1ページ/4ページ

旧書「狩人の魅惑」1の1(ホプラス)

素朴な木のホール。人の集まる空間。大勢の人々の向こうから、彼は、彼女をを見つめていた。

水の複合体の居場所は、コーデラの東方、同盟国チューヤとの国境に近い、キプチャ地方の、森の鍾乳洞にあった。宿主は誰か、わからなかったが、少なくとも、閉鎖的な土地柄を選び、支配しながら、暫く潜伏するだけの頭はあった。
発覚したのは、この地方を通過したコーデラの商人の一行から、「娘が村人にさらわれて、生け贄にされた。」と訴えがあったからだ。
生け贄の習慣など、この地方ならずともないが、一部に祭りの日に「精霊の花嫁」を選び、徹夜で一晩、山小屋や洞窟で過ごす、という、伝統的な地方民族としての儀式は残っていた。
それで手違いがあったのだろうと、調査がはいったら、本当に「精霊に捧げられた」ということがわかった。
娘をさらったのは、チューヤ系の村人で、理由は以下の通りだ。
祭りで、村娘を洞窟に籠らせた。すると、翌日、酷い様子で発見された。娘は怪我をした上、ショックで喋れなくなったので、詳しい話は聞けなかった。だが、手紙が添えてあり、『我は精霊。儚く光輝く美しい者を求める。直ぐに。これではない。』と書いてあった。娘は、黒髪で大柄だった。
娘の手当てと犯人捜しでパニックになったので、手紙を無視したが、三日後、村が水棲系のモンスターに襲われ、村では一人だけ、金髪だった少女がさらわれた。少女の母親が、自分も金髪だから、私と代えてくれと、一晩、洞窟にこもったが、何も起こらなかった。
訴えたかったが、最初の犠牲になった娘の親が、公にしないでくれ、と頼んだため、何もしなかった。
すると、次の祭り。今回は祭りは中止にしようとしたが、金髪の若い娘を捧げないと、村が滅ぼされるのではないかという意見がでた。しかし、チューヤ人は、もともと黒髪が多い。そこに、たまたま通りかかった商人の娘が、金髪だったので、一部の村人が、早って誘拐し、「捧げた」。
そして本格的に調べると、数年前から少しずつだが、行方不明者が増えていて、特にこの一年では、同じ要求をされた村があり、範囲が広がりつつあることがわかった。
コーデラよりで、比較的色素の薄い村では、若い娘を持つ一家がみな逃げ出したりで、廃村になった所もあった。
反対に、村長が娘達のかわりに山小屋にこもり、「この村は黒髪の娘しかいません。勘弁してください。」と一晩、呟き続けて、難を逃れた所もあった。
そうかと思えば、金髪とまでいかない、明るい茶色の髪の娘が、さらわれたところもあった。色素の薄い、年頃、と呼ぶ一歩手前の、いたいけな少女が選ばれているようだ。そして、彼女達は帰ってこない。
これは魔法がらみと見なされ、エパミノンダスが、チューヤを越えて東に逃げた事も合わせ、魔法院の調査担当になった。
そして、パズルがはまった。
だが、それでも、僕達は、ここにまっすぐ行く事は出来なかった。
同盟国と言っても、ラッシルと違い、チューヤとコーデラとは、80年前に戦争をしていた。コーデラが勝利し、チューヤには、親コーデラの政権が起った。反コーデラ派は、チューヤの北東部に逃げ、昔日の勢いはないにしても、チューヤ政府とは争いを繰り返している。
キプチャ地方はコーデラ領であるが、文化風習はチューヤに近い。また、コーデラの端に当たることから、中央に反発した少数民族が、逃れて行く場所でもある。
「狩人族」は、そのような少数民族の一つだ。最後にコーデラと交戦していたのは、百年以上前だが、結果として、狩人族は、先祖伝来の自然崇拝と、独特の生活様式と伝統を保ちながら、殆ど外部と交流せずに暮らしている。
水の複合体の宿主は、その狩人族の土地の向こう側に逃げ込んでいたのだ。
僕達は、彼らの土地を通過しなければならないため、協力を要請するために、シイスンという街に向かった。
この地域の狩人族は、「改革派」と呼ばれ、シイスンのコーデラ人となら、交流がある。今の時期は、春に風のエレメントが増加した後、本来なら夏になり、火のエレメントの増加する季節だ。しかし、この地域には明確な雨季があるため、本来なら秋に増幅するはずの水のエレメントが、一次的に増えている。
地域によっては、水害を避けるために、狩人族は、森や山から町に住み、シイスンの産業を補助(交易の他は、農業や狩猟など。特に狩猟では、貴重だが狂暴なモンスターが重要。)していた。
シイスン市に掛け合い、逗留中の狩人族のトップと、話し合いの場をもうけてもらった。通行許可をとり、案内をつけてもらうためだった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ