勇者達の翌朝(新書)

□柘榴の邂逅
2ページ/2ページ

新書「柘榴の邂逅」1の2

ギルド受付で「グラナド・クレマノス」に面会を求めるが、
「今日は宿舎にいるから、緊急ならそっちに行ってくれ。」
と、ギルド宿舎の方に回される。
宿舎は、昔の家の辺りだ。ギルドメンバーの多い借家街だったが、最近は二人組でも一人ずつ宿舎に住み、家を借りたりしないらしい。数件分の広いスペースに、大きな五階建ての宿舎が建っていた。一階が受付と食堂になっている。
俺は身分証明書を出して面会を申し入れたが、
「今日は開放日だ。丁度、そこのカウンターの所にいるから。」
というので、案内なしで行こうとしたが、受付けた男性が、
「グラナ!グラナド!王子様!お前に、身なりの良い紳士の面会!」
と、後ろ姿に呼び掛けた。
「王子様は止せよ。」
彼は、やや斜めに向いただけで答えた。隣で、すっかり酔ったカップルの女性のほうが、
「そうよ、いくら似てるからってさ。一緒にされたら、嫌よねえ。」
と笑う。片割れの男性が、グラナドに対して、
「しかしなあ、テスパンは論外だったが、新カオストもなあ。真面目に、どうよ、王子が生きてれば。」
と話し出した。グラナドは、「さあな。」と一言言うと、俺を振り替えって、
「悪いが、そっちはやってないんだ。仕事の話なら、明日、ギルドで改めて…」
と言いかけ、驚いた顔で、俺を見て、黙った。
俺も黙った。
グラナドは、顔はディニィにそっくりだった。男と女なので、完全とは行かなかったが、ディニィを知る者には、一目で充分だ。髪は、黒っぽい赤毛で、グラナド(柘榴)はここから来たのだろう。癖は少ない。
そして、目は琥珀色、肌は赤銅色だ。
ディニィはプラチナブロンドに空色の瞳、ルーミはゴールデンブロンドに、オリーブグリーンの瞳。二人とも色白だ。ディニィは、神官になって、魔法結晶を体内に入れるまでは、茶色い髪と目だったという話だ。実際にグラナドを見るまで、たまたま変化する前のディニィ譲りの髪と目が、誤解を生んでいるだけで、ルーミの子の可能性もあるのでは、と考えていた。
だが、違う。
これらは、エスカーのヴェンロイド家の特長とされている物だった。
グラナドは、アンバーの瞳で、俺を見上げていた。ディニィとそう代わらなかった、小柄なエスカーよりは大きいが、ルーミよりは小さい。ラールより少し低いくらいだ。
ギルドの登録は、魔法院出身の火と土の魔法使い、最高技は使えないが、上級の攻撃魔法と、火と土の回復、土固有の探知魔法、火固有の照明魔法が使える、となっている。今は魔導師は強さにインフレがあり、二属性にここまでの能力があっても、魔法官なら「ギフト」とは呼ばれない。ただし、優秀なギルドメンバーではある。
エスカーは全属性の最高技と、暗魔法の基本技が仕えた。しかし回復は出来ず、エレメント属性の恩恵は、火の魔法攻撃力と、水の魔法防御力しか受けられなかった。風の転送魔法は苦手だった。ルーミは、火魔法で、攻撃も回復も得意だったが、基本は剣士なので、上級魔法は発動率が悪く、まず使わなかった。ディニィは、神官のため、属性魔法は使えなかった。聖魔法は、最強技まで使える、当事はたった一人の神官だった。
ヴェンロイドの特長さえ出なければ、どうだったろうか。
「上に、俺の部屋があるから、来てくれ。」
俺が自己紹介も出来ずにいるうちに(しかし何と言ったものだろう)、グラナドは俺を案内し、自分の部屋に連れていく。カウンターの青年が、「あれ、そっちは無しなんじゃないのか。」と、背後に声をかけていた。
グラナドの部屋は、実に簡素だった。昔、ヘイヤントで、団体部門にいた頃の、ルーミの部屋に何度も行ったが、それに比べて手狭だ。
彼はベッドに座り、俺には傍らの椅子に座るように促す。テーブルには何もなく、壁には黄バラの絵が一枚かかっていた。
「下で飲み物かってくればよかったな。」
と、小声で呟く。
俺は、気遣いなく、と答え、
「ラズライト・ユノルピスと言います。初めまして。貴方のお父様の昔の友人です。」
と自己紹介した。今の外見の年齢からしたら、昔の友人、と云うのは無理があるかも知れないが、他に言いようがない。
はたと気づいた。連絡者がピーチクパーチク喋るから聞き損なっていたが、行けばわかる、と言われただけで、他は未確認だ。俺は、今は身を隠して、それなりにギルドで平和に生きている少年を、王位を目指して戦わせる事になるわけだ。説得はどうしよう。
だが、俺の悩みを尻目に、グラナドは静かな目で、俺を少し皮肉に見やり、
「友人?恋人だろ。」
と言い放った。
「だが、中身は違うようだな。ネレディウスと呼ぶのも何だな。ラズーリ、でいいかな。」
――そう、これが、彼の「ギフト」だった。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ