勇者達の翌朝(新書)

□海を後に
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新書「海を後に」1の1

リンスク伯爵家は、先々代の従姉妹の嫁いだ、ランドッシャ男爵家から、跡継ぎを迎える事になった。
ランドッシャ家は、代々続いた貴族ではあったが、今は土地はあっても財産はあまりなく、地代で慎ましい生活をしていた。リンスク家とは殆ど交流はなかったが、先代が跡を継いだ時には、一度、リンスクまで来た事があった。当主には子供は三人いるので、本人ではなく、そのうちの誰かが継ぐかも、と言うことだ。
ランドッシャ家の現当主は、嫁いだ先々代の従姉妹の養女と、当時の当主の弟の息子が結婚し、生まれた娘の孫に当たる。そして、その養女とは、昔、ハギンズが、下級貴族の女性との間に作った子供だった。
女性の親族が反対し、別れさせ、子供はリンスクの親戚に引き取らせた。子供の存在は、ハギンズには隠されていた。リンスク側にも記録はなく、ランドッシャ家の記録にあった。相手の家の名は伏せられ、母親の消息も記載がない。
皮肉な事に、ハギンズ本人が、生きているうちに手に入らなかったものは、死後に、彼が存在を認識していなかった子孫が受け継ぐ事になったのだ。
孤児院は再建が計画されているが、子供達は、それまで、ラズーパーリの孤児院(運営元は「ホプラス基金」と言った!)に引き取られた。メドラとクミィがひとまず付き添って行った。
「クミィは、少し、土地と離した方がいいと思ってな。俺がメドラに進めた。」
とグラナドが言った。
「レイーラのグラス、覚えてるか?あれ、薬入りだったが、領主もハギンズも、女性用の興奮剤を、レイーラに飲ませる動機はない。たぶん、クミィだ。」
「彼女にだって、動機はないよ?」
俺は疑問を挟んだ。グラナドはため息を付き、鈍いな、と呟いた。
「クミィは、シェードに惚れてる。メドラが撃たれた時、クミィの回りには暗魔法が僅かに感じられたから、操られたと思った。だが、ミルファとシェードが、仲良く話している時、クミィの回りに、『見えた』んだよ。ミルファに向いた『感情』が。暗魔法も混ざっていようだが…影響を受けやすい体質、というのはある。だが、『思い詰める』だけで、魔導師でもない人間が、あそこまで『気』を貯めるなんて、相当なもんだ。とっさに、らしくないことしてしまったよ。」
説明を受けて、クミィの『気持ち』は理解できた。だが、それにしても、何故、レイーラに薬を?質問すると、グラナドは呆れ顔になった。
「だから、シェードが、レイーラ以外、眼中にないからだよ!奴の態度で、丸解りじゃないか。レイーラが、領主とくっついてくれたら、と思ったんだろ。『王子』の他に、『王女』が必要な理由、俺達の推理と同じ結論、クミィも出したんだろ。」
グラナドは、この後、散々、俺に鈍い、鈍い、と言い続けた。

海賊島は、無人のため、当分は半閉鎖される。海賊達の遺体は(利用された兵士の遺体も)丁寧に埋葬され、惨劇の現場は整理されていたし、地方に逃げた仲間は、大半が戻ってくるという話だが、戻ってきたとしても、若手だけで「水軍」再興は難しい。移民を募る話もあるが、悲惨な事件のあった土地だけに、それも難しかった。ただ、墓があるため、完全に閉鎖されるわけではない。定期船は出入りするようになる。
海上自警団は陸に本拠地を置いて再建される。コンドラン、ガンラッド、タラは、それに入る事になった。孤児院が再建されたら、そちらも手伝う、と言っている。
そして、レイーラとシェードは、俺達に同行する事になった。

同行を申し込んだのは、こちらからだった。レイーラは、完全に公営になっても、孤児院の再興を手伝いたい気持ちもあったようだが、迷った末、「私の力がお役にたつなら。」と引き受けてくれた。
シェードは、当然、抗議するものと思ったが、一応は、黙って見送るつもりだっらしい。だが、仲間達から「追い出され」た。
「いくらあんたが、『俺はコラードだ。だから、海賊島を再建する。』って言っても、実績がないと、人は集まらないわ。人だけ集めて観光地にでもするなら、新しい領主様に頼めばなんとかなるかもしれないけど、水軍を再興したいんでしょ。広い世界に出て、名を上げて、男振りを上げてから、戻っておいで。」
と、メドラに言われ、仲間達はそれに大いに頷いた。
グラナドは、
「シスコンはどうせ着いてくると思った。」
と憎まれ口を叩いていたが、ミルファから、
「そんな事言って、心配してたんでしょ。」
と突っ込まれていた。
グラナドは決して口には出さなかったが、自分と同行させる事で、レイーラとシェードが「潜称者」と断罪される事を防ぎたかったのだと思う。それを言うと、
「はあ?レイーラはともかく、何であんな生意気なガキを庇わなきゃならん。」
と反論した。
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