勇者達の翌朝(旧書・回想)

□三日月の都
2ページ/5ページ

旧書「三日月の都」1の2(ホプラス)

その夜は、エスカーをルーミの部屋に泊め、ルーミは客間(ほぼ物置)で寝る予定だったが、僕の部屋に来てしまった。
気持ち良さそうに安心しきって眠るルーミの傍らで、僕はまんじりともしなかった。
翌日、僕達は王都に向かった。控えめに入った積もりだったのに、大勢の見物に囲まれて、王宮まで進んだ。
ガディオスとアリョンシャが迎えに出てくれた。去年、ヘイヤントで会ったが、その時はルーミはいなかった。
アリョンシャが、
「ディアディーヌ様が『狩人族を味方に付けた』って、すごく盛り上がってて。君達も、是非、盛大に迎えよう、と言うことになった。」
と説明してくれた。
ガディオスは、
「エス…ヴェンロイド師に会った時、『誰かに似てるな』と思ったら、ルーミ君だったんだな。並べて見ると、目元は違うが、鼻から口元が似てるな。」
と感想を述べた。
団長・副団長にも、久しぶりにお会いした。待遇について、お礼を言う。団長は、
「今まで気づいてなかったのか。君らしいと言えばそうだが、家計と家事を握られてしまうと、頭が上がらなくなるぞ。」
と忠告をくれた。家事は主に僕が、と言ったら、笑っていた。
騎士団の知人と会う他、ディニィとエスカーを通じて、国王陛下を始めとする王族の方々、宰相閣下、重臣の方々に紹介された。
キーシェインズの話題は、出なかった。エスカーは、探索を魔法院で担当しているし、最初は騎士団で討伐隊を組もうとしたから、「みんな」知っているが、将軍に敬意を表して、あえて言わないんだろう、と語った。
しかし、いなくなった少女達は、結局一人も戻って来ず、骨も見付からなかった。発表しない方針に決まったなら、僕一人がこだわっても仕方ないが、事件の展開にはキーシェインズ本来の人格が反映され過ぎている。恐らくは後継者として育成したという、将軍にも、責任の一端はあるのではないだろうか。ルーミの件を差し引いても、個人的にすっきりしない結末だった。
しかし、この王都滞在期間は、全体を通して見ると、短いが平和な一時だった。

たった一つの事件を除いて。

   ※※※※※※※

そうゆっくりしてもいられないんじゃないか、と、ルーミが僕にささやいた。その話を聞いたその時。

王女三人が、ドレスアップして並んだ。最年長のディニィは、薄いブルーのレースの、夏服にしては襟の畏まった服、アクセサリーは銀と水晶のティアラと、揃いの耳飾り。色彩は大人しいが、それが金髪と青い目を、美術品のように引き立てている。
バーガンディナ姫は、夏らしいデザインの、黒に近い紫のシンプルなドレス、ディニィの物とは異なるデザインのティアラに、金の耳飾りと首飾り。三人の中では、唯一、髪の色が濃く、金色が映えている。ディニィと並ぶと、彼女のほうが姉に見えるほど、大人びた雰囲気があった。
一番幼いイスタサラビナ姫は、艶のある濃いピンクの生地の、肩と胸元を大胆に開けたミニドレス、宝石類は全て紫で、アンクレットだけ銀。ティアラの代わりに、波を打たせて垂らした髪に、紙でできた赤い髪飾りをつけていた。口紅の赤も鮮やかだ。髪は赤毛気味のブロンドだが、眉と目は栗色だ。上流の女性は、あまり髪の色を変えないと思ったが、最近の流行りらしい。
ディニィは神殿育ちだ。バーガンディナ姫は王宮で、亡くなった王妃の家庭教師をしていたパドール夫人が、イスタサラビナ姫は前国王シシュウス7世の「最後の」公式寵姫・テスパン夫人が教育した。だから「母役」の好みが反映されているようだ。。
ここは野外劇場、僕はディニィ、カオスト公の次男ヨルガオードがバーガンディナ姫をエスコートして、王族席に着いた。イスタサラビナ姫だけは、テスパン伯爵(テスパン夫人の弟。本来のテスパン夫人は、つまり彼の妻は、若い頃に他界。)の席で、仲良し(テスパン家に引き取られた、遠縁の兄妹。)といたがったので、そちらに行った。
「ねえ、お姉さま。タッシャには、公の席での振る舞いを、きちんと教えられる教師を付けたほうがいいわよ。去年のほうが、まだお行儀良かったわ。」
と、バーガンディナ姫がディニィに言った。同席していたザンドナイス公夫人が、彼女に賛成し、
「本当、貴女達があのくらいのころは、『身に付いて』ましたよ。あの子だけ、母親の顔を知らないからと、陛下も甘やかすから。だいたい、あの服は何?いくら流行りだからって。あれじゃ、去年の、風船みたいなドレスのほうが、まだ品があるわ。」
と言った。夫人はテスパン夫人とは、仲が悪かった。しかしディニィは、
「確かに、最近、変わってきましたね。テスパン夫人は、もっとふんわりとした可愛らしいドレスを着せたがるほうでしたのに。そういえば、今日はお姿がなく。」
と不思議そうに答えた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ