勇者達の翌朝(旧書・回想)

□緑の火、オリーブの瞳
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旧書「緑の火、オリーブの瞳」1の1(守護者)

風を倒した後、少しだが時間的余裕が出来た。あくまでも、ホプラス達の基準ではあるが。
彼らは、一度王都に戻ったり、道々、細かいクエストをこなしたり、ナンバスに戻ったり、ヘイヤントで新年を迎えたり。
俺は、新年から暫く、一時的に彼らの元を離れていた。
以前、担当していたワールドが、三つ、それぞれ極端な運命をたどった。それを見届けるためだ。
一つは、駆け出しの頃に、実習で見学に行った所だった。自然主義が行き過ぎた流行を見せた事を切っ掛けに、文明が衰退し始め、地核変動や疫病が流行っても、「自然のままに」という思想のもと、人類は激減、最後の一人が死んだ時点で、バランスの球体が真っ黒になって、機能を停止した。
二つ目は、俺が本格的に関わった最初のワールドで、反対に、文明が欄熟して、バランスの球体は、白に近い状態が暫く続き、世界中で戦争が勃発し、エネルギーが溢れ、「究極の白」に輝いてから、爆発して砕けた。
両方とも、ワールドは放棄されて、バランスの球体は処分だ。前者は、この先、人類がまた生まれたら、復活するかもしれない、という話ではあるが。
最後の一つは、先の二つより後に担当したワールドで、それは、この度、ついに「昇格」する事になった。過去の担当者は全員、昇格式に列席できる。
俺の担当した勇者は、とっくに故人だが、彼の遠い子孫には会えた。女性だったが、そのワールドから選出される、最初の守護者になる予定だ。
昇格式は、筆舌には尽くせない、感動的な物だ。俺の担当していた勇者の魂が、呼び戻されて、子孫と共に守護者になるかも、という話は流れたようだが、それでも、印象の良かったワールドの昇格には、例えようのない、充実感がある。
そうして気分よく過ごしていたら、同じ祝いの席に出ていた同僚から、
「お前の今の担当ワールドだろ、これ。急展開になってるみたいだぞ。」
と情報をもらった。その直後、連絡者がやって来て、
「想定外に急変したから、悪いけど、すぐ戻ってくれない?」
と、珍しくしおらしい事を言った。
取り急ぎ、ホプラスの所に戻る。クーベルより西の、オルタラ伯領。その冬の保養地として有名なサカミナ近郊に、いきなりファイアドラコンが出た。火の複合体だった。
中心都市のオスタリアは、騎士団と魔法院の支部があり、海賊対策で、オルタラ伯の雇った私兵達も多数いる。ファイアドラコンのただでさえ強い、火の属性が強化されるが、人間と違い、より高度な火魔法は使えず、立ち回るほどの頭もない。供給元としての火は、水や大気に比べたら、断ちやすい。
市街に被害を出さないように、外れの砂漠の入り口付近に、追い出した。ファイアドラコンは、四属性のドラコンの中でも、一番好戦的なので、砂漠から、人間のいる所を狙ってくる。だから、単純なわりに、人数を投入しても、苦戦していた。
俺が駆けつけた時には、ホプラスは、魔法官数人と、ディニィを水や炎の盾で守りながら、なんとか、ドラコンに近づこうとしていた。
ドラゴンを挟んで反対側には、ユッシ、ルーミ、サヤンがいる。ユッシはいつものスパイクシールドではなく、青く半透明な材料で出来た、特殊な盾を持っていた。ルーミも、いつもの剣ではなく、凍りついた刀身の青光りする、特殊な剣を持っていた。サヤンは、倒れた三人ほどの兵士か騎士を、ユッシの盾の下に保護しながら、火の玉を気功で弾いている。
キーリ、ラールは、離れて、矢と飛び道具で、ドラゴンの注意を、仲間から反らしている。二人の近くにはエスカーがいるが、「もっと近づかないと…」と言っていた。
不本意に、分断されたようだ。
俺は、ホプラス側から、全体を見通し、位置を把握して、うまく誘導し、ホプラスの魔法剣、エスカーの水魔法、ルーミの持つ剣の威力が、最も効果的に、同時に炸裂するようにした。
ファイアドラコンは、物凄い悲鳴で、全身を燻らせ、砂地に倒れた。一気に火のエレメントが放出する所に、ディニィの聖魔法、続いて、魔法官達の、水魔法が集中。
危なかったが、完全な勝利だ。
ラールとキーリ、エスカーは、ディニィに駆け寄る。ホプラスは、ルーミ達の所に走る。
ルーミの手にした剣は、刀身が、三分の一ほどに減っていた。
「いい剣だったが、ファイアドラコンに切りつけちまったからな。」
と、笑いかける。
ホプラスは、
「剣より、お前達は大丈夫なのか。突っ込んで行ったように見えたけど。」
と、ルーミと、背後の連中を心配した。
「ああ、大丈夫。ユッシの借りた盾、この剣と同調して、守備範囲が広がるやつだから。俺が切った瞬間、盾から、凄い凍気が…」
見ると、ユッシの盾は、持ち手しか残っていなかった。
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