勇者達の翌朝(旧書・回想)

□一粒の光
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旧書「一粒の光」1の1(ルーミ)

その朝は、昔の夢を見た。ヘイヤントにいた頃、ホプラスの任命式に出た時の夢だった。
夢は漠然としていたが、起きてから、その時、実際にあった事を思い出した。

ホプラスから、
「来週明けは任命式があるけど、来てくれるだろう?」
と、半ば確定、な口調で言われた。
「悪い、週明けから、書類書きを手伝わなきゃ。」
うちの隊長は、書類を溜め込んで丸投げするようなタイプではなかったが、この二ヶ月は細かいクエストが続き、ギルドからも後でいい、と言われていたので、つい滞ってしまった。
ホプラスは、それでも、「間に合うようなら、途中からでも来て。」と言っていた。
夜に宿舎に帰り、ロテオンとカイルにその話をし、
「卒業式には行くつもりだ。」
と言うと、翌朝、隊長から、
「キンシーの代わりに、再来週のクエストに入ってもらうから、来週は休め。」
と急に言われた。なので、任命式に行く事にした。
昼になって出掛けようとすると、カイルとロテオンが、急に宿舎に戻ってきて、
「その格好で行く気か。」
「正装していけ。」
と、俺を着替えさせて追い出した。
騎士団に行くと、イベントホール(正確には、記念堂とか祝杯堂とかいうらしいが)へは行列が出来ていた。俺はホプラスから招待状みたいな物を渡されていたので、別の入り口から、桟敷の、大層な席に通された。
そこは俺一人だったが、他の桟敷席には、畏まった男性や、着飾った女性が溢れんばかりに詰められていた。二、三人の席もちらほらある。
給仕(?)みたいな男性に、「お飲み物は」と聞かれたので、オレンジソーダを頼んだ。
隣のボックスから、女性の声が「キーシェインズ」と言ったのが聞こえたので、ソーダにむせた。
「…キーシェインズの方々には申し訳ないけど、サンデナ、あれは流れて良かったと思うわよ。彼女には、もっとふさわしい縁があるわ。」
クスクス笑う女達がいたが、先に発言した女が、
「そういう意味じゃなくて、彼女なら、もっと立派な方が良いってことよ。家柄じゃなくて。」
と断言したので、笑い声は止んだ。
「まあ、確かに、あの令息はねえ。ハープルグ将軍のお孫さんなのに、任命式で、桟敷も取れない成績だもの。」
「そうそう、お聞きになったと思うけど、よく、街で、はしたない身分の女性と、問題を起こしているらしいわよ。」
「あら、私は、男の子って聞いたわ。あと、ほんの子供な女の子。」
「そんな年の子に、そんな真似をさせるなんて、しもじもの親は何をしているのかしら。」
女どもは、ある意味正しいが、ある意味、間違っている。あのキーシェインズの阿呆は、「しもじも」につけこんでるだけだ。
「タルコース様、ロビーでお連れ様がお待ちですが。」
飲み物をくれた男性の声がする。
「あら、叔母様かしら。」
最初の女の声がそういい、見てくるわ、と席を外した。
「シスカーシアって、やっぱり、名家の方だけあって、理想主義ね。」
「ほんと、サンデナのクラスは、貴族でなくても、キーシェインズ家となら、破格の縁談だったのに。」
どうやら、さっきの女、シスカーシアというのは、女達のリーダ格だったらしい。
「まあ、ご自分は、名家に生まれて、名家のご子息と早々婚約、だもの。庶民にでもすがり付きたい、サンデナの気持ちなんて、わからないわよねえ。」
すがり付いてるのは、サンデナとかいう女じゃないと思うんだが。…まったく、女ってのは、どうしてこうなんだ。席を外しているシスカーシア以外は、みんな、頭に藁でも詰まってるのか。
「ねえ、でも、今年の首席、庶民出身の、しかも、孤児らしいわよ。」
耳がピクリとする。
「ああ、そうね。ネレディウスさん、だったかしら。三年スキップなのに、剣術もトップ、背も高いらしいわよ。ラッシル系らしいわ。」
「あら、詳しいじゃないの、ミリエル。」
「私じゃないのよ、お父様が。…お祖父様は反対らしいけど。」
「いいわね。容姿も整っているらしいわよ。…先月末、うちの夕食会で、エンツィアナの奥様が話してらしたんだけど、ナデレーン家の、なんて言ったかしら、下のお嬢様…ほら、色黒で垂れ目で、ふくよかな。ナデレーン家は騎士の婿が欲しくて、あの子に当てる、って算段らしい、と噂していたのよ。そしたら、ラエルの若旦那様が、『当てるもなにも、ネレディウス君にも選ぶ権利くらいあるだろう。比べて、見た目がつりあわない相手、というのは、どうかな。』と言ってたわ。あの人が、ああいう言い方をするって事は、かなり…。」
「丁度いいじゃない、首席なんでしょ。顔を見る機会よ。ナデレーン家はお金と地位はあっても、美は買えない、見本みたいな家ですもの。」
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