勇者達の翌朝(旧書・回想)

□道行き
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旧書「道行き」1の1(ガディオス)

「事件」が起きた時、俺はラジウムとヘクトルと一緒に、食堂で朝食にしていた。ラジウムが、昨日、魔法実験のクラスでネレディウスと組んだが、何かぼうっとして、元気がなかった、と言っていた。
ダストン医師が、今年は春風邪の質が悪い、と言っていて、珍しくタルコースも、二日間休んでいる。それを思い出し、話題にのせた時だった。
アリョンシャの甲高い声が響いた。
「ちょっと、止めろ、止めて。」
と、いつも落ち着いた彼にしては、慌てている。何事かと声のした方を見ると、とたんに大きな音がして、椅子とテーブルが倒れた。
二人の人間が取っ組み合いをしていた。アダマントとカントバーデが茶髪の縮れ毛を、アリョンシャと、貴族組のクロテイスが、黒髪の方を止めていた。
縮れはキーシェインズだ。そして、黒髪は、ネレディウスだった。
ネレディウスは少し大人しくなったが、キーシェインズは、尚も暴れていた。しかし、クラディンス先生が駆けつけて来たので、全員がしんとなった。
キーシェインズは口を切ったらしく、真っ赤だった。ネレディウスは、ほぼ無傷だった。先生は、ネレディウスが喧嘩、というのに驚いたのか、彼の顔をしばらく注視していた。
キーシェインズが何か言おうとしたが、血にむせたので、医務室に連れて行かれた。
「キーシェインズには回復したら聞く。ネレディウス、君は、何があったか、今、ここで説明したまえ。」
ネレディウスは、
「僕が先に殴りました。」
と、はっきりと言った。
「理由はなんだ。」
「嫌いだったからです。」
「何?」
「以前から、気に入らなかったんです。だから、殴りました。謝罪はしません。」
「…そうか。では、処分が決まるまで、自室で謹慎していたまえ。団長が明後日おいでだから、相談の上、決定する。」
「はい。」
ネレディウスは、極めて落ち着いた様子で、食堂を出た。俺は後を追いかけようと思ったが、アダマントの、
「先に殴ったのはネレディウスですが、挑発したのはキーシェインズです。」
に、足が止まる。
「彼のいうことは本当です。ネレディウスは、最初は、無視しようとしていました。」
と、クロテイスまでもが、口添えをする。
「で、君達も、理由は言わないんだな。」
先生は静かに言った。
「よろしい、この事で証言がある者は、食事の後できたまえ。まずは先にキーシェインズに話を聴こう。」
俺の背後で、貴族組の連中が、
「タルコースに報告がいるな。」
「もうさすがに、後がないだろ、キーシェインズは。」
とひそひそと言っていた。
昼からは、誰かを捕まえて話を聞きたかったが、ネレディウスの代わりに外部のボランティアに孤児院にいったため、騎士団に戻ったのは夕方近くになった。
前庭をつっきると、向こうから、見慣れた金色の頭が歩いてきた。
「ルーミ君。」
声をかけると、顔をあげて、こちらを観たが、なんだか情けない顔をしていた。
「あ、ガディオスさん。」
声も死にそうだ。
「ネレディウスに会いに来たのか?」
「はい。でも…」
「心配しなくても、証言もあるから、来週には謹慎、解けるよ。」
セレニスは驚いて、死人のようだったのが、生き返ったようになった。
「騎士団の受付の人は、『当分面会禁止だ。』としか。来週から試験ですよね。それで謹慎て、なにがあったんですか。」
俺は事情はまだ、詳しく知らなかった。だが、相手がキーシェインズであること、ネレディウスの態度からして、原因は、セレニスだ、と悟った。
「ああ、たいした事じゃないんだが、食堂でひと悶着あってね。要するに喧嘩。相手が悪いんだけど、ちと怪我したもんだから、騒ぎたててね。結構、派閥みたいなのがあるから。」
セレニスは、ネレディウスに怪我がない事を聞くと、少しほっとした。
改めてみると、やっぱり、可愛いなあ、この子。顔もだが、ちょっとした表情とか、仕草とか。最初はきつい感じがしたけど、だんだん、角がとれて、年相応の感じがでてくると、特に。
「その、実は、この前の休みに会った時に、ちょっと口喧嘩になって。」
ああ、ネレディウスの不調も、このせいか。ある意味、キーシェインズは巻き添えかもしれん。
「でも、明日から、クエストで、しばらくニルハンの遺跡村に行くんです。急に決まって。だから、その前に、と思って。伝言だけ、お願い出来ませんか。」
「宿舎の方に行こう。謹慎中だから、無理かもしれないが、駄目元で。」
俺はセレニスを、強引に宿舎に連れて行った。これは会わせてやらないと、と思ったからだ。
残念な事に、宿舎の方でも、謹慎中を理由に断られた。
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