勇者達の翌朝(旧書・回想)

□女神像
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旧書「女神像」1の2(ホプラス)

「君も、出来るなら事前に思い止まらせるようにしないと。ギルドマスターから勧告されたばかりだろう。」
「すまん。」
傷らしい傷はない。当て身だろう。しかし、次男と三男はともかくも、長男は結構な腕だ。
それを、こう急所をあっさりか。
回復した三人は、そそくさと逃げた。三男が、覚えてろ、と言ったのだが、長男に叱責されていた。
「ホプラス、ラールと一緒に、島に行くけど、お前も来るだろ?」
「ラール?」
「このお姉さんの名前だよ。」
あらためて彼女を見る。切れ長の瞳はラベンダーブルー。国籍不明な美貌が、ますます例の彫刻を思わせる。
ラーリナ・ライサンドラと名乗った、そのラッシル系の長身の女性は、
「寺院の僧侶から、今夜中に受け取らなきゃいけない物があるんだけど、今日が祭りとは知らなかったの。」
と語った。
外国人にしてもかなり怪しいが、どちらかと言えば人見知りするルーミが、妙に彼女の事を気に入っていた。
「俺はルミナトゥス・セレニス。ルーミって呼んでくれ。でこいつは、ホプラス・ネレディウス。あ、そうだ。船がいるね。アンシルのとこなら、魔法動力のボートがあるから、話してくるよ。向こうに身内の船着き場があるから、入島も待たなくていいし。」
ルーミが駆けていってしまうと、ラールは、「ルミナトゥス?」と不思議そうに呟いた。僕は彼女の疑問がわかったので、
「男なんです。」
と、解説した。彼女は驚いていた。
ボートは、僕が動かした。一定以上魔法力があれば動くが、そのため、一般市民は、このタイプは借りない。
島につくと、アンシルの弟・ランシルが、俺たちを見て、
「いくらあんた達でも、今夜、二人で入れる訳には。」
と言ったが、ラールの姿を見て、
「ああ、女性がいるならいいか。」
と、通してくれた。
祭りは、こう言ってはなんだが、殆んど何もなかった。島の外のほうが、出店や花火で盛り上がっている。神殿にお参りをして、アミュレットと、特製の飴を購入する恋人同士で賑わってはいたが。
待ち合わせ場所とされている、神殿の裏手に回る。比較的高位の僧の格好をした年配の男性が出てきた時は、「しまった」と思った。「政治がらみ」ではないだろうか。ギルドは国境を越えて活躍するため、政治関係の依頼は受けない。彼女はギルドの本拠地に来ながら、ギルドで同行者を雇わなかった、しかもあの腕前だ。
とりあえず、会話に聞き耳を立ててみた。
「わざわざ申し訳ありません。急にぼっちゃまが、我が儘を申しまして。」
「構いませんよ、ラール様。あの方に差し上げるのであれば、その辺りで買うわけにもいかないでしょう。」
どうやら、高貴な「ぼっちゃん」のお使いで、飴を買いに来たらしい。しかし、飴自体は、今夜限定ではない。寺院の生産品ということであれば、1日の数が決まった限定品には違いないが、わざわざ入島制限の日に、女性一人で、お使いに出されたのだろうか。
彼女は、制限の事はしらないようだった。まあ女人禁制ならともかく、同行者を見付けるくらいは、たいした手間ではないと考えたのかもしれない。
とりあえず、政治がらみでは無さそうだ。
ラールが用事を済ませたので、帰ろうと、ルーミを探したが、見あたらない。呼ぶと、直ぐに姿を見せた。ついでに、飴を買っていた、という。
「いちおう仕事中なんだから、ふらふらするなよ。」
「あ、ご挨拶だな、入島書類に署名して、帰りの船の手配してたんだよ。アンシルのとこは、祭りに参加するから、店じまいだから、定期船で帰れって。この時間、帰る方は余裕あるから。」
差し出されたチケットは三枚。普通のチケットに、「ギルド扱い」「フリー」の判子が押してある。
短い船旅のあと、別れ際にラールは、代金を払おうとした。僕は、たいした事はしてないし、別にいいと言おうとしたが、
「三兄弟に、すでに払ってたよね。ギルドに言って、受け取っておくから、問題ないよ。」
とルーミが答えた。最後に、彼は、飴に着いてきた一対のお守りのうち(これも飴でできていた)、女性用のを、ラールに渡していた。
「それじゃ、ありがとう。」
と、終始無口でミステリアスだった女性は、彫像にはできない優雅な微笑みを残して、去って言った。
帰り道、ルーミが妙に上機嫌で、
「また会えるといいなあ。」
とまで言うので、
「お前、ああいう人が好みなのか?」
と聞いてみた。すると、
「うん。」
とあっさり返事が返ってきた。僕は思わず、「え?!」と叫んだ。
「だって、お前、あの顔に、あのスタイルだよ。お前こそ、何を平然としてるんだよ。」
ああ、別に一目惚れした訳ではないんだな。
平然としていた訳ではないが、例えば三兄弟のシーン、なんだか、歴史絵画のようで、現実味がなかった。
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