勇者達の翌朝(旧書・回想)

□プラチナの林檎
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旧書「プラチナの林檎」1の2(ルーミ)

「青蘭亭って、なんか摘発されて、つぶれたアレだだろ。そんなところ、行くからだよ。」
「あの頃は、まだ、なんとか真面目な店だったんだよ。女将が出て行って、すぐ後くらい。とにかく、僕以外にも、何件かそういうのがあって、みんな、『紅シダレ亭』に行くようになった。拡張したころだったし。」
「…で、それだけ?」
「うん、まあ…。」
俺は吹き出した。
「笑うこと、ないだろ。」
「だって、なんか、いかにもお前って感じだし。」
昼食が終わり、ラールに会うため、オッツに向かった。
いつもは人気の夕方のクルーズだが、来週の花火大会のため、今日は出控える人が多いのか、わりと透いていた。
ラールは、直ぐに見つかった。個人用の貸切船の乗り場に、一人でいた。こっちを見て、満面の笑みを浮かべている。
よかった。怒ってない。俺は、嬉しくなって、ホプラスより一足早く、ラールに駆け寄った。

そして、ホプラスより一足早く、縄でしばり上げられた。

   ※※※※※※※※

船は揺れる。縛られた俺たちを乗せて。
「犬猫同様で、怒ってないと保証したのは誰だよ。」
「犬猫同様だから、縛られてるんじゃないのか。」
「犬猫なら首輪だろ。縛るやつがいるかよ。」
ラールは俺たちを、縛って小部屋に閉じ込めたきり、姿を消した。
「だいたい、なんで、お前まで、ホプラス。」
「お前をおいてく訳にいかないだろ。それに、ラールだし、別に、変なことにはならないだろう。…お前だって、随分、あっさりと。」
「まあ、一度、しばかれるくらいはなあ、と思ってたし。それにしても放置はきつい。はあ、腹減った。」
やがて、ラールがやって来た。俺達は、同時に、彼女の名を呼んだ。
ラールは、微笑んでいた。そもそも、笑顔を怪しむべきだった。
「ラール、あのさ、ホプラスがトイレに行きたいって。」
俺は試しに言ってみた。ホプラスは、はっと俺をみる。
「そう?じゃ、手伝ってあげるわ。」
笑顔だ。
「うわ、いい、やめてくれ、ラール。」
「遠慮しなくても。あんたのは一度見てるし。」
ホプラスが、本気で焦り始めた。やっぱり、縄はほどいてくれんか。
腹が減った、と言ってみるか。ほどいてくれるか、ラールが食べさせてくれるか。
「ルーミ、お前も、なんとかいえ!」
ラールは、ナイフを持っている。そう言う趣味か。キャラにはあってるか、と諦めかけたとき、ラールは、俺達の縄を切った。ぽかんとしているホプラス。
ラールは、声をあげて笑った。
「脅かすなよ。」
と、俺は膨れて言った。
「仕返しよ。」
「なんで僕まで。」
「あんた、飼い主でしょ。」
飼い主とは聞き捨てならん。反論しようとしたら、
「冗談はおいといて、ふんじばって連れてこいって、命令だから。」
誰が、と言おうとしたが、ホプラスが、
「君の主人って、ラッシルの貴族か何かだよね。それが、なんで。」
とたずねた。
「今は、別の方のために、働いているの。会えばわかるわ。」
船を降りる。オッツよりかなり涼しく感じる。ヘイヤントの水源・バイア湖。すっかり夜の湖岸。七色に夜光する浜。
西岸の七夜浜らしい。
浜沿いの、大きなホテルに案内された。警戒がものものしい。
最上階の、スイートに通される。
部屋の中央には、女性がいた。まだ少女と行ったほうがいい。色白で、柔らかくカールした、プラチナブロンド。ぱっちりした空色の目。
かわいい子だな、と思った。ラールのような完璧な美貌じゃないが、妙に人目をひく。
彼女は、ぽかんと俺をみている。ラールは、彼女に対し、どうなさいましたか、と二回声をかけた。
「まあ、すいません。お伺いしていた以上に、お綺麗な方なので、驚いてしまって。」
張りのある、高い声をしている。
「で、君、誰?」
と聞いてみた。するとホプラスが、俺を小突いた。
「何するんだよ。」
と言ったが、ホプラスは、かしこまって、少女に向かい、
「彼はルミナトゥス・セレニス。私は、ホプラス・ネレディウス。以前、短い間ですが、騎士として、お仕えさせて頂きました。ご尊顔を拝見できまして、光栄でございます。」
ど、憎らしいほど、絵にかいたような所作で、少女の手にキスした。
「ディアディーヌ王女殿下。」
少女は、にっこり微笑んだ。

   ※※※※※※※※

俺はなおもぽかんとしていた。
ディアディーヌ王女、コーデラの最高位神官。兄のクリストフ王子の死亡により、現在の、第一王位継承者。
ここは一流ホテルだが、はっきり言えば、田舎だ。なんでこんな所に、王女様が。
「私のお話を、聞いてもらうまえに、会ってもらいたい人がいます。」
王女は、右手を見て、優雅に手招きする。
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