勇者達の翌朝(旧書・回想)

□苦い涙
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旧書「苦い涙」1の1(ルーミ)

ラールとの最初のクエストを終えた後、その次に引き受けたのは、小さい子供のボディーガードだった。
街に行って、母親へのプレゼントを買う間、後ろから見守って欲しい、というもので、依頼人は父親で、クーベルの裕福な商人だった。
その任務が終わったあと、有名なクーベルの市場や、各国商店街を見ていると、やや畏まった店の、閉店セールのショーウィンドウで、あのペンダントを見つけた。
子供の頃、何かのおりに、ガラス玉で細工を作ることになり、俺は、プレーンな蒼いガラスで、ホプラスは淡いオリーブグリーンの泡ガラスで、小さなペンダントを作り、お互いに交換した。それから、いつも身に付けていた。故郷の滅びた事件の後も。悪徳孤児院を脱走した時も。スリになって稼いでいた時も。だが、「組織」の大物の財布に手を出して、失敗して捕まった仲間を助けに行ったら、その仲間に裏切られ、悪党に取っ捕まって、領主に売り飛ばされそうになった。その時に、悪党に取り上げられた。
俺を逃がして、アルコス隊長の逗留していた宿屋を示してくれたのは、顔馴染みの悪徳警官で、「セサム」(そばかすの意味だったと思う。)だった。「組織」と癒着している割には、嫌な奴じゃなかった。だが、賄賂をやりとりして、「組織」に手を出さないなら、「悪徳」には代わりない。
俺がペンダントの話をすると、取りに行ってくれたが、騒ぎになって、俺は逃げ出し、隊長の宿に助けを求めた。
《そんなに大事なものなら、とってきてやるが、何か騒がしくなったり、間に合わなかったら、逃げて宿屋に走れ。》
と、セサムに言われていたからだ。
隊長は、俺を助けて、領主の所業は明るみに出たが、手先の悪党も(捕まった者もいた)、セサムも行方不明だった。
なぜ、そこまでしてくれたかはわからなかった。子供(弟だったかもしれない)がいたが、死んだ、と言ってた事がある。たぶん、そいつが、俺と同じくらいだったんだろう。
霧の鉱石で、ホプラスと再会した時、ホプラスは俺の贈った物を持っていた。俺はなくしてしまったのが、とても苦しかった。
見つけた時、非売品になっていたが、ホプラスが、買い戻し、再び俺にくれた。店の髭の主人は、
「何年か前に、まとめて骨董市で手にいれた。アンティークの価値はないが、味があるので、気に入って非売品にしていただけ。どうしてもっていうなら、売るよ。閉店だし。」
と、非売品なのに、安い値段で売ってくれた。
しばらくして、その店のあった所に行ったことがあるが、本当に閉店していた。
こうして、ペンダントは、俺の手に戻った。
その次の月のことだった。
やや大きいクエストが入った。クーベルの山の温泉町で、新しいタイプの源泉が発見されたが、なんだか穴を埋めたがるモンスターが出て、塞いでしまうから、退治して、源泉を確保して欲しい、という依頼だった。
現地で、地元の発破師と、夫婦者の魔導師に会った。
魔導師は問題なかった。女性は土魔法使いで「アシア」、男性は風魔法使いで「ゲイルド」。彼は、ボウガンも使用していた。地元のギルドのメンバーだった。
問題は、発破師だった。「バクマイト」と名乗った、ずんぐりとした東方系のそいつは、夫婦と同じく地元の出身で、マリーゴールドみたいな赤毛気味の金髪の、7、8歳くらいの「マルゴ」という娘を連れていた。
忘れもしない、俺は一目でわかった。悪党のリーダー格の男だった。
奴は、領主に売り飛ばす前に、俺を「味見」しようとした。だが、居合わせたセサムが、「領主は『清らか』でないと半額以下に値切るから、止めておけ。」と言ったので、諦めたが、ペンダントを奪ったのは、奴だった。
向こうも、俺に気付いていたが、奴は捕まらずに逃げ出した組、娘の手前もあるだろうから、「ばらされ」たくないだろう。俺も、ホプラスに、食うためにスリをしていた時期があった、と知られたくなかったので、脱走から隊長に保護されるまでの間の話は、殆どしていなかた。
どうせ今回限りのクエスト、お互い、黙っているのが得だ、そう思って、仕事中は、知らないふりをしていた。火魔法が使えるというと、発破師のやつと協力させられるのが嫌なので、ホプラスには、
「ちょっと調子が悪いから、魔法は使いたくない。『出来ない』事にすると、ギルドにクレームがくるから、さりげなく、うやむやに出来ないかな。」
と言った。ホプラスは、俺の具合を心配したが、承知してくれた。
嘘に加担させるのは悪いが、今回は、剣士として呼ばれていて、二人も魔法使いがいる以上、俺たちには魔法を使う機会がなかった。
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