勇者達の翌朝(旧書・回想)

□狩人族の協力
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旧書「狩人の魅惑」1の2(ホプラス)

状況からすれば、協力が必然だが、改革派の中にも保守派がいて、被害にあっているのは同族ではないので、巻き込まれるのを怖れて反対するもの、コーデラの王族の一行と協力すること自体に難色を示すものがいた。
許可が出ない場合は強行突破か、迂回して陸路か、もっと遠回りして海路でチューヤから回るかだが、出来ればさけたい。
こちらはディニィとエスカーが話し合いに参加し、護衛三人は一言も話さなかったが、保守派の一人が、
「雨季もすぎたし、水のエレメントなら、火と違って、その宿主とやらが血迷っても、大した事にはならない。間に森や谷、川もあり、問題の地域とは、区切られている。ラズーパーリ程度の広さでも、運良く全滅はしなかったと聞いている。」
と言った時、ルーミが耐えきれずに、立ち上がって、発言者を睨み付けた。
僕も止める気は失せていた。
だが、その時、話し合いの場に、入ってきた一行が空気を変えた。
「遅くなりました。ただいま、戻りました。」
先頭の長身の青年が、族長に挨拶をし、
「まだ終わっていないのですね。」
と静かな声で行った。
狩人族は、男性は長身で細身、女性は小柄でふくよか、と性差による特徴があった。その青年は、男性の特徴をよく備えていた。
背は僕より高い。ルーミより細身だが、腕はがっしりとしている。小麦色の肌に、黒褐色の髪と瞳。小さいが、一族独特のデザインの耳飾りをつけている。その耳飾りとよく似た色合いで装飾された弓と、矢筒を背負っていた。腰にも矢筒がある。さらに、弓よりは目立たないが、魔法矢用の小型ボウガンも持っていた。
「丁度良かった。代表の意見は、半々でな。お前の意見はどうだ、キーリ。」
族長は、簡単に概略を説明した。キーリと呼ばれた青年は、僕たちを一通り見渡すと、急にはっと目を見開いた。
「…という事でな。どうだ、キーリ。」
彼は、ずっと縫い付けられたように、こちらを見ていたが、族長に名を呼ばれて、我に返った。視線の先には、ラールがいた。ああ、彼女を見ていたのか。確かに、背の高い女性は、狩人族には珍しい。ディニィも、エスカーより少し低い程度で、そう小柄でもないが、ラールはルーミを止めるために立ち上がった所なので、目だったようだ。
ラールも、少し注意して、キーリを見ていた。武器を持ったまま、話合いの席に入ってきたからだろう。
先ほど、ルーミに睨まれた男性が、キーリなら安心、とか、そういう事を呟いたので、諦めたが、意外にも、彼は、
「協力しましょう。私が同行いたします。」
と言った。
彼は、族長の命令で、仲間と、前もって、状況の確認に行っていた。「自分達も被害者だ。」と訴えていた、商人の娘をさらった地域には、過去に、不誠実な取引で、トラブルになった一団が含まれ、あくまでも一部ではあるが、悪評があった。このため、先に狩人族独自に、真偽を確かめようということになったらしい。キーリは、彼等の処までは行かなかったが、近隣を調べてきた。
エレメントの状態は明らかにおかしく、このまま放置すれば、夏が過ぎて秋になり、水のエレメントが増幅するタイミングで、また雨季になるかもしれない。さらに、この季節はまだ幼生のはずの水属性のモンスターの成長が早く、この付近にはいないはずの、ガス類を使う物が、僅かだが見られた。
「これは遠くの問題ではありません。私も、最初は、疑いましたが、これは協力しないと、狩りが出来なくなるかも知れません。」
彼、キーリが断言したため、大勢が決まった。
同行してくれる事になったため、キーリは、その夜は狩人族の宿を離れ、僕達の宿に泊まる事になった。市長秘書が、シイスンで一番大きな宿「ビョルリンク」に案内してくれたが、泊まる前に一悶着あった。
市長から予約はいれていたのだが、宿につくと、店の主人とおぼしき壮年男性から、
「うちの宿に貴族は泊めない。」
と言われた。彼は秘書とは知り合いらしく、
「解ってて、なんで連れてきたんだ、パルマ。」
と、食って掛かった。
男性は、がっしりした、いわゆる純粋戦士タイプで、キーリより浅黒い顔に、キーリよりは明るい、茶褐色の髪と目をもっていた。南方系の特色は少ないので、日焼けかもしれない。
「だがね、ユッシさん、この人達は、あんたの嫌いなチューヤの貴族じゃなくて、コーデラの王族なんだから。いまさら、断るほうが、筋が違うだろ。」
「いいや、とにかく帰れ。」
と言って、僕達を睨み付けた。しかし、こちらが何かいう前に、その頭は、いきなり地面に、めり込まんばかりに下がった。
「いいかげんにしな、このバカ兄貴!」
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