勇者達の翌朝(旧書・回想)

□狩人族の協力
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旧書「狩人の魅惑」1の3(ホプラス)

ユッシと呼ばれた男の背後から、拳に力をこめて、大の男を地面にめり込ませ、小柄な少女が表れた。ショートカットのライトブラウンの髪、薄いブラウンの瞳。顔立ちは、目がくりっとした所はコーデラ系、鼻が小ぶりな所は東方系かチューヤ系のようだった。ユッシを兄と呼んでいたが、親子程の年の差はあるだろう。
「客の選り好みなんて10年早い!…て、父さんがいってたよ。あたしは、百年早いと思うけどね。」
「おお、サヤン。味方してくれないのか。」
「当たり前じゃん。あ、母さんからは、『まだ、あたしら世代の宿だから。』と言っとけ、って。」
さっきと打って変わって、ユッシは、しゅんと大人しくなる。
サヤンという少女は、明るく笑って、俺たちに向き直り、
「ごめんねー、すぐ案内するから。」
と言った。すると、さらに奥から、老婦人がでてきて、サヤンの頭をこづいた。
「あんたも、お客様に、その口は何なの。」
老婦人は、俺たちをさっと見て、
「ユッシ、父さんに、夕食、一人ぶん、追加して、と伝えて。」
と、まだしゅんとしている大きな息子を奥に引っ込ませた。
「すいませんね。すぐに案内しますから。二人部屋一つと、四人部屋一つでお取りしていますので、お一人増えても、お食事の分だけの追加になります。」
と微笑む。奥から、もう一人、婦人の夫らしき老人が、包丁を片手に顔だけ出して、
「肉、魚、野菜、聞いてくれ」と、すぐ引っ込んだ。
彼らの顔を比べてみる。お互い、民族系統がバラバラに見えるが、しっかり家族の顔をしていた。
ディニィが、
「よろしくお願いします。」
と優雅にお辞儀すると、サヤンは、
「うわー、本物のお姫様だ。」
とぼうっと声をあげ、また母親に注意された。
主人に聞かれたとおり、夕食のメニュー指定を終えると、サヤンが部屋に案内してくれた。
「ええと、こちらが、ツインの、一番、いいお部屋です。」
ディニィと、護衛のラールが入る。
「夕食前にシャワーでも…」
とラールが、いうのが聞こえた。
「そして、こちらが、ファミリーの一番…」
と、残りの鍵を渡しかけたが、凄く妙な顔で、いきなり止まった。
「えーと…ごめんなさい、もう一部屋、要りますね。」
と、目を丸くする。
「あれ、ひょっとして、狩人族の方は、相部屋しないんですか?」
と、エスカーが、キーリに聞いた。キーリは、
「いいえ…」
と、答え、不思議そうな顔をする。
僕は、サヤンの言わんとすることを理解したので、ルーミを適当にごまかして、部屋に連れていこうとしたが、ワンタイミング遅かった。
「俺たちは四人一部屋で…」
と言ったルーミに対し、
「えー!お客さん、男だったの?!」
とサヤンが言ってしまった。
後が大変だった。
サヤンは、エスカーの事も女の子だと思ったらしいが、根拠は、エスカーのマントが、この地方では女性の物によく似ていた事だ。
ルーミの場合は、髪が長く、男性にあり得ない髪型(これもこの地方の基準で)だったからという話だが、当然、荒れた。流石に背が伸びてからは、女性に間違えられることも無くなっていたため、久しぶりの勘違いが、ルーミにはかなりショックだったようだ。
宿の食事は美味しかったが、ルーミが暗かったので、吊られて、みな暗かった。
翌朝、僕とルーミが起きた時、キーリはもう起きていたが、エスカーは、まだ寝ていた。
朝食前に、剣の鍛練でもして、発散させてやるか、と、階下に降りた。
朝の食堂で、キーリとラールが、ディニィを囲んでいた。傍らにユッシもいる。彼は、僕たちを見て、すっ飛んで来て、涙ながらに、僕らの手を握り、
「いや、すまなかった、許してくれ、この通りだ。」
とひたすら謝った。
ユッシは、僕とルーミ、エスカーが、ラズーパーリ出身であること、さらに、僕とルーミは孤児であることを聞いて、「苦労知らずの貴族」と思い込んだ事を謝ったのだ。
貴族で両親が健在だからと言って、苦労知らずな訳ではないのだが、態度が軟化した相手に、水を差さなくてもよいか、と、適当に答えておいた。
彼が僕達の手を離したと同時に、上からエスカーが、寝坊を謝りつつ、降りてきた。さらに、サヤンが、奥から、勢いよく飛び出てきた。
「道場に連絡ついたよ。いつでもおいでってさ。」
と、明るく言う。
話しは、こうだった。
サヤンは、気功術の「山岳派」を、中級まで修めているが、その道場が、皆伝をめざす者用に、森の奥深くに、特別な修行場を持っている。そことの転送装置を使えば、今回、僕達の目指す鍾乳洞がある処まで、かなり楽にいける。
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