勇者達の翌朝(旧書・回想)

□水の誘惑
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旧書「水の誘惑」1の1(エスカー)

水の宿主は、クミオ・キーシェインズ。コーデラ王国にその人ありと言われた、クミオ・ハープルグ将軍の孫だ。
ハープルグ将軍の時代には、長い歴史の中では一時的にだが、騎士は貴族しかなれない、庶民に門戸の広い魔法官の数が削減、という、「庶民排除」の空気になっていた。
将軍は庶民と移民中心に、下級貴族の騎馬戦隊をも率いて、槍、格闘、斧、弓の混成部隊を上手く使い、南方から侵略してきた、異民族と戦った。この戦いは、将軍の戦闘スタイルと当時の主力部隊の構成、歴史的位置付けから、最後の武人戦争、と呼ばれる。
これ以降は、騎士の選考基準改正や、魔法研究の新しい展開などがあり、伝統的な魔法剣と魔法によるスタイルが、改善強化された。
将軍は、現在は引退、現役を退いてから、大病もし、一気に老けた、と言われているが、実年齢は、まだまだ元気な、僕の師匠のティリンス師よりは若いはずだ。(魔法官は男性的要素が少ないから、長生きで老けないと言われている。)
将軍には五人の娘がいて、四人はそれぞれ一つ違い、五女は四女と四つ違いだ。夫人は四人産んだ後、体調を崩して療養したが、男の子を欲しがる夫のために、五人目に挑戦し、またしても女の子を産んだあと、死亡。
のちに、次女から五女までは、貴族ではないが、裕福な庶民の名家に嫁いだ。長女は家に残されて、下級貴族を婿に取った。婿は今は故人だ。
長女から四女には、娘が一人ずついた。末娘には、双子の娘と、二つ違いの息子がいた。
その末の息子がクミオ・キーシェインズだ。
彼は騎士団養成所を卒業した後、実家に帰って、将軍の領地を相続するために、「勉強中」だったが、あまりに不出来なので、先頃、将軍が、孫娘達の誰か一人に、後を継がせようとして、家族でもめている、という話が聞こえた。
このクミオ・キーシェインズという男に関しては、ほとんど情報がなかった。結局、王都に来ず、エリートコースを外れた卒業生の情報なんて、名前でも伝わればいいほうだ。ホプラスさんでさえ、「今期の首席はネレディウスという男だったが、彼は諸事情で王都にはこなかった」程度だ。まして、「七光りで強引に騎士養成所に入ったが、卒業出来ただけで終わった」人間の話なんて、完全にスルーだ。
だから、ホプラスさんと同期だったと聞いた時、ひょっとしたら、友人と戦う事になるかもと思い、ガディオスとアリョンシャに、先に探りを入れた。二人とも、だいたい、以下のような事を言った。
「自分達も含めて、『孤児組』『庶民組』とは仲が悪かった。『庶民組』には、『貴族組』と自分達を同一視したがる一派があって、『貴族組』よりも特権意識が強かった。彼はそういう連中の一人。だから、ほとんど接点はなかったが、いい思い出には繋がらない相手だ。詳しくはネレディウスに聞いた方がよい。」
他には、体格があまり良くないのに、副武器を格闘にしたり、水魔法なのに、風魔法を使いたがったりと、「変な」所があった、程度の話を聴いた。
これだから、ホプラスさんも、昔の友人と戦うような、抵抗はないと思い、せいぜい確認の意味で、名前を聞いた。
ホプラスさんはびっくりしていた。それは当然だ。だが、兄さんまで、「えっ。」と叫んで、ホプラスさんより、大袈裟に驚いた。
兄さんは、その時は何も言わなかった。ホプラスさんが
「彼は、名門貴族出身のリーダーのグループにいて、そのリーダーが同席している時は大人しかったが、いないと、ね…。孤児組には直ぐに嫌みや皮肉を言うから、僕たちとは、仲が悪かった。ガディオス達に聞いたなら、知ってるかもしれないが、僕も、一度、派手に殴ってしまった事がある。」
と説明した。僕は、
「ホプラスさんが殴るくらいだから、相当なもんでしょうね、まあ、宿主になってから、やってる事をみたら、どんな人だったかは、予想付きますが。」
と答えておいた。
その後、出発になった。道中、キーリさんの話通り、水のモンスターが多めに出た。軟体系はホプラスさんと兄さんが前にでて、魔法剣と組合せ技で一掃、飛行タイプは追尾効果のある、キーリさんの弓で片付けた。動きの鈍い触手系は、素早い二人、ラールさんとサヤンが息の根を止める。僕と姫は、キーリさんと共に、ユッシさんの盾に守られながら、魔法で仲間を助けた。
僕は全属性使えるが、その恩恵のせいか、回復が使えず、エレメントの補助も、魔法関係以外は受けられなかった。正直、タイミングよく回復してくれる姫をはじめ、仲間の存在はありがたかった。
キーリさんとサヤンが、途中の休憩ポイントを確認してくれていたため、疲弊も最小限、各種補給もスムーズだった。
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