勇者達の翌朝(新書・回想)

□吸血鬼ブルーカ
2ページ/2ページ

新書「吸血鬼ブルーカ」1の2(ラール)

農民の女性二人、つまり埋葬された男性の婚約者と、その友人が、墓場に指輪を取りに行く話だった。相手が死んで暫くたって、物を惜しむ気持ちのほうが、強くなったのか、飢饉でお金が必要になったのか、事情は分からない。王族と農民の違いだけで、「手料理」も含め、粗筋は同じだった。
その夜の、宿の夕食は手羽先煮込みだった。男二人の食があまり進まず、野菜ばかり食べていた。だから私が手羽先をほとんど片付けた。
まだ十代だったからかもしれないけど、男性のほうが、ああいう場合は繊細だわ。でも、ホプラスはともかく、ルーミまでもとは意外だったわね。
この本は、その時に、ルーミから貰ったものだろう。荷物に紛れただけかもしれないが。
とりあえず、これは置いといて、その日は、もっと明るく簡単な物に絞って探した。

ミルファがグラナドと旅立った後、暫くして、チブアビ団の話が詳しく伝わってきた時、その土地の遺跡がモデルということで、「ブルーカの子孫」が再び流行り始めた。
作者は故人だったため、知人友人の解説付きの復刻版が出た。途中まで読んでみたが、確かに、国境を越えて流行るだけあり、面白かった。だが、ルーミが「途中からダメ」と言った理由はわかった。
ブルーカは、主人公のレオナルドを利用して、自分の王国を復活させようてしている。レオナルドは、自分の率いるレジスタンス軍のために、力が欲しい。レオナルドの恋人のテーベは、「善き者(聖霊)」を見る巫女(反対に「悪しき者(悪霊)」を見る巫女もいる。善し悪しは霊の分類で、巫女の人格とは無関係)で、主人公以外では、宝冠に宿ったブルーカの声を、直接聞ける唯一の人物である。ただしブルーカは「悪しき者」に入るため、姿は見えない。敵役の悪徳領主のイワノフは、どうやらレオナルドの実の兄らしかった。
こう言った人物が交錯し、利用しつつ牽制しつつ、その駆け引きは中々面白かった。だが、どういうわけか、兄かどうかの伏線を回収しないまま、イワノフが死亡、彼の妹のオーリガが新しい敵になるのだが、それがヒロインのはずのテーベを押しのけ、レオナルドと「敵同士の恋」を始める。
本来は「妹」を恋し「兄」を殺した時点で悲劇的に終わるはずが、裁判が始まって話題と人気が爆発したために終われず、生々しさを薄めるために伏線は掛け捨て、ヒロインは流行りのタイプだから差し替えた、と、作者の弟の解説があった。ただ、その新ヒロインも流行が変わると人気がなくなり、後に差し替えられた。
シリーズ中、主人公の恋人は、このように数回変わったようだ。
この作者は、もともと、冒険小説らしからぬ暗い描写が得意だったようだが、この最初の差し替えから、作風・文体が変化し、普通のありがちな活劇調の冒険物になっていた。
もちろん、説話ごとにヒロインの違う、色気のあるアクション物を好む人は多く、それはそれで需要があったから、数十巻続いたのだろう。
十巻の途中で順番に読むのは飽き、解説を先に読んでから、面白そうな巻だけ、読むことにした。
気は紛れるだろう。少なくとも、ミルファを待つ間は。
五冊目、表紙では、主人公が青く光る氷のような剣を掲げ、今度は甲冑姿の新ヒロインが彼に寄り添っている。私はそれを手に取り、「タイトルの秘密と初期設定」と書かれた、最初の担当編集者の解説から読み始めた。
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ