勇者達の翌朝(新書・回想)

□真珠取りの恋
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新書「真珠取りの恋」(ラール)1の3

その時ようやく、シモーネは、カストールの恋人が、レイーラではなく、メドラだったと悟る。また、エレミナースが連れてきた連中の中には、北から流れてきた者がいて、その一人は、両親を殺した海賊の一味だった。間接的に仇を助けた事に衝撃を受け、シモーネは自殺してしまう。
サフィロスはルセントを更迭し
、カストールに後を任せ、兵を率いてコリンの応援に向かう。
最後の戦いで敵を完全に敗走させたが、エレミナースの毒矢がサフィロスに当たる。彼は、レイーラ達を祝福し、島の平和をコリンに託し、静かに息を引き取った。
そして十年後、提督代理として島を治めていたカストールは、昇進して本国に帰ることになった。
島は平和的に独立する事になり、新しく長になったコリンの側には、妻のレイーラと、息子のサフィロスがいた。
二人目を妊娠しているレイーラは、今度は女の子がいい、そしたら名前はメドラにする、と、夢見るよう言った。
コリンとカストールは、それを聞き、感慨に耽った。
物語りはそこで終わる。

これは、まだガディナ王妃が存命だった時、コーデラで見た、新作オペラの原作だ。「真珠の島」というタイトルだったが、どちらかと言うと、メドラのドラマに重点があった。
本の間にメモがあり、バレエに「恋する真珠達」、オペラに「海賊の恋」と、二つの原作になる、とあった。
そういえば、最初のオペラ化の時、ラッシルの若手作曲家のラマフも名乗りを上げたが、コーデラの人気作曲家ビザールの物がヒットしたため、諦めた、という話を聞いた。
ラマフは、ようやく念願が叶うと言うところか。バレエも作るとは。
ビザールのものも、ラッシルでは上演された。曲は良かったが演出が不評だった。コーデラで見た物と違い、原作の南国情緒を切り離し、舞台をコーデラに移した演出になっていたからだ。そのため、真珠は南洋の大玉ではなく、コーデラのバイア湖畔の淡水真珠におきかわり、首飾りは細工の見事なティアラになっていた。しかし、歌詞の変更がなかったので、コーデラ語が分かってしまうと、歌はともかく、台詞部分に違和感があった。
また、メドラ役に予定していたプリマドンナが、現代オペラへの出演を嫌がり(ラッシルの歌手はコーデラの歌手と比べ、ふくよかな人が多く、彼女も例外ではなかった。南国風の露出の多目の衣装を嫌がったから、だという。)、新人歌手が抜擢されたが、彼女の声はメドラ役には軽やかすぎ、表現力に難があった。
その新人歌手は、今では堂々としたプリマドンナだ。恐らく、今回はレイーラ役だろう。
こけら落としは、新年になる。その頃には、一度、ミルファも戻るだろう。
委員特権は、良い席を確保出来る事だ。委員会の仕事はまめにこなそう。娘が、「誰か」を連れてきた時のために。
取り合えず、もう一度、真珠取りの恋の物語りを手にとって、進めた。
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