勇者達の翌朝(新書・回想)

□不惑の花
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新書「不惑の花」1の1(ガディナ)

最初に彼に会った時、実は好印象だった。
金糸のように煌めく髪、オリーブグリーンの澄んだ瞳。女性にも滅多にいない、真珠のような頬。
「はじめまして。ルミナトゥス・セレニスです。」
高めで、よく響く、明るい声。
一つ年上のはずなのに、少し幼く見えた。背は高かったし、華奢なわけではないけれど。
彼等が下がった後、ディニィが、
「私も、初めて会った時は、びっくりしたわ。」
と言った。私は、
「ヴェンロイド男爵を見て、想像していたから、金髪なのは意外だったわ。」
と答えた。正直な感想だった。
「でも、やっぱり田舎の庶民ね。さっきも、あの騎士が支えなきゃ、つまづいたまま、頭から転びそうだったわ。可愛いけど、男に好かれそうな顔だし。ていうか、あの騎士が彼氏でしょ。」
とタッシャが、姫にあるまじき発言をしたので、さすがに父も、渋面を作り、
「タッシャ…。」
と、眉を潜めた。ディニィは、
「慣れてないのよ。ラッシルでは堂々としてけど、自国の王様の前ですもの。」
とたしなめた。私は、「タッシャにきつすぎる」と、父からたしなめられていたので、父が自分できちんと注意するまで、黙っている事にした。
父は、「国民を見下すような表現は止めなさい。」と言ったが、後半の、姫として品のない部分については言及しなかった。ディニィもだ。
ただ、言い方を変えれば、確かに、男女の別なく、見とれてしまう美貌ではある。私も、可愛い顔だと思ったのは事実だった。

まさか、この時は、夫になるとは思わなかったけど。

私は三回結婚した。一回目は、幼馴染みの従兄弟マクスオードと。二回目は、その弟ヨルガオードと。そして、三回目は、姉の夫だった、ルミナトゥスと。
一回目、短い結婚期間だった。夫は、兄と共に、複合体に襲われて亡くなった。だが、子供のころから好きだった人と過ごせた、幸せな日々だった。
二回目、あの頃は、舅だったカオストの叔父様を、信頼していた。その頼みでもあり、義理の弟の彼とは幼友達でもあった。だが、当事者の二人にとっては、残念な結婚だった。
彼は、最初の夫に顔は似ていたが、性格は正反対だ。幼友達なので、分かっていたつもりだった。ディニィが、結婚前にそれを心配してくれていたのだが、彼女はカオストの叔父様を「誤解」していたし、なんといっても、姉は恋愛も結婚もしたことがない。だから、勝手に「分かっていない」と決めつけていた。
分かっていないのは、私のほうだった。
ヨルガオードとは、世間が言うように、完全に破綻した訳では無かったが、彼は外に愛人を作り、私にも子供にも、年に数回しか会わなかった。会う時は友好的だった。彼は、身分を隠して酒場に行った時、女性を争って、お遊びのはずの決闘で死んだ。彼の落ち度ではなく、相手がルールを無視して、いきなり切りつけたのだ。
この二回目の結婚では、長女クラリサッシャ、次女レアディージナを産んだ。サッシャ(クラリサッシャ)は、体も心も丈夫だったが、次女ディジー(レアディージナ)は、産まれた時に息が一度止まってしまい、それはすぐ直ったが、姉に比べて、体の弱い子だった。気性も大人しすぎ、私に似ずしとやかな所は良かった(ディニィ似と言われていたが、姉は、大人しく見えて、実はしっかりしていた。)が、王女は、高貴な義務に従い、成長するにつれて公務に忙しく、さらに、神官になる場合を除き、早期の正式な結婚と、出産を期待されるものだ。
医師は、まだ幼いから、と前置きはしたが、なるべくご負担になるような事は避けるように、と指導した。一応、成長に従って、状態は改善はされていた。
ディニィは、最高位の神官であったため、体内に多量の魔法結晶を入れていた。その影響で、妊娠しにくい、しても難産になる、と言われていた。サッシャは、慣習で神官になる予定だ。だが、私は、上級に進む前に、止めさせようと考えていた。彼女が高位の神官になってしまえば、後継者を産む負担がディジーにかかる。
タッシャが、正式な結婚をして、子供を産んでくれればいいのに、相変わらず、自分勝手に暮らしていた。
こういう事情だったので、姉が妊娠した時は、娘達のためには、一瞬、安心してしまった。が、直ぐに姉を心配した。この時は、珍しくタッシャと意見が合った。
姉は、危険性について、ルミナトゥス陛下には、殆ど話していなかった。妊娠しにくい、という話はしていた。それはそれで正しい話だ。私は、話しておくように勧めたかったが、懐妊が発表になる直前に、陛下の弟で宰相の、ヴェンロイド男爵が、事故で亡くなった。姉も、義弟というだけではなく、子供のころからよく知っていた、彼が死んでしまった事に、衝撃を受けていた。
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