勇者達の翌朝(新書・回想)

□花に寄す・回想
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新書「花に寄す/ライラック」1の2(ラール)

フェイトアが風の教祖の後宮に入ったのは、どうやら母親に売られたらしかった。
後宮の女性達は、帰る家のあるものは返された。ない者も、被害者と言うことで、処遇は考慮された。しかし、フェイトアは「一番のお気に入り」という事で、女達から妬まれていて、「あの女がそそのかしていた」と讒言された。
イスミールは、王に直接、フェイトアも犠牲者であると訴えた。王は見せしめのために死刑にしよう、と一時は考えていたが、女達には、フェイトアが乱暴な教祖を諌めてくれた、と言う者もいる事、フェイトアの美貌が噂になっていて、有力貴族が何人も、「身元保証人」を申し出ている事、真面目な堅物のイスミールが、必死でかばう「幼馴染み」、と言うことに興味を示し、面会に行った。
結果、王はフェイトアを許したが、身柄は、自分の親友のライウェル伯爵に預けた。伯爵は、王家より財産がある有力者で、両親は無く、妻は王の従姉妹で、息子が昨年、生まれたばかりっだった。本人は騎士で、未来の団長と言われていた。
ルーシスは、これを「認めた」イスミールに、食って掛かった。イスミールは、王から、フェイトアとの関係を聞かれた時に、「幼馴染み」と答えていた。ルーシスは、
「お前が、俺の言う通り、『許嫁でした』と言えば、あんな奴に渡さなくて済んだのに。」
と泣き叫んだ。イスミールは、そういう問題に疎いので、
「でも、それじゃ、彼女が僕と嫌でも結婚しなきゃならなくなるだろう。あんな奴って、伯爵は、立派な騎士だ。」
と答えた。これはルーシスの怒りの火に油を注いだ。彼は、自分が今まで思っていた事、フェイトアが、恐らくイスミールを好きだった事をぶちまけて、罵った。イスミールは、自分が彼を何度も傷つけてしまった事にショックを受けた。さらに、ライウェル伯爵は、優秀な騎士ではあったが、裏で女遊びが激しく、妻が従兄弟である王の立場を考えて、何も言わないのをいいことに、あちこちに別宅を持って好きに遊んでいることを、ルーシスから聞いた。(彼は、より世情に詳しいため、ギルドのつてで、色々、「裏話」を知っていた。)
ルーシスは、翌日、ギルドを止めて、イスミールに何も言わずに、都を出た。

ここまでが一巻だ。

二巻目は、また二年後に飛んだ。子供時代の回想から始まり、リラの花畑で遊ぶ三人の描写から始まる。その後、教会に行った彼らは、勇者集合図の下で、将来の夢を語る。イスミールは親の後を継いで職人、フェイトアは都に行ってみたい、歌を習いたい、ルーシスは、二人の夢が「つまらない」と言い、自分は騎士になりたい、と語った。(問題の挿し絵はここだった。)
目が覚めると、現在。ルーシスは、「火の教団」と共に、レジスタンスで戦っていた。
「火の教団」は、唯一、まともなレジスタンス組織だった。カルト化した「水の教団」がラッシル国境付近に拠点を移したため、討伐は主に「火の教団」中心に差し向けられた。教祖は、レアルドという、ルーシスより僅か三つ上の青年で、風魔法使いだった。彼の妹ジェディナラは、「火の巫女」と呼ばれる、魔力の極めて高い、火魔法使いだ。赤毛に緑色の瞳の美しい女性で、ルーシスと同い年だ。彼は、彼女の側近の立場で、彼女に恋愛感情を持っているが、彼女自身は、あまり統率に向かない兄や、ややぼうっとした兄嫁のメリサ、兄にライバル意識が激しい、末弟のリアルドを、上手く仲立ち、実質参謀の立場なので、恋愛の余裕はない。さらに、先だって急性アルコール中毒で死亡した父親(前教祖)に毒殺の噂があり、犯人がリアルドという尾ひれがつき始め、調査に疲れていた。
二年の間に、王国は激しく変わった。王はヒンダから花嫁を迎えたが、シュクシンからきた踊り子に熱を上げている。騎士団長サンドノス、宰相アプライド、神官長リーリアナ他、優秀な家臣が支えているが、貴族の中にも離反する者が出てきている。ライウェル伯爵夫人(王の従姉妹だが、現在の第一位の王位継承者)を女王に、と言い出すものもいる。
ルーシスは、これを「噂」として、夕食の席で、都から戻ったばかりの間者のスパノスから聞いた。その時に、
「伯爵夫人は大人しい人だったが。」
と言った。スパノスは、
「ああ、昔はな。今は、しっかりしてらっしゃる。夫が妾に入れあげたり、お母君を亡くされたり、弟さんが戦死したりで、波乱を味わって、すっかり変わったな。」
と答えた。ルーシスは、妾の話しに心がざわつくが、その時、「怪しい奴を捕まえた」と、見張りが飛んできた。
捕まったのは、イスミールだった。麓の街(地理的にはアレガノス当たりだが、町の雰囲気はナンバスに近い)に買い出しに出ていた女性の仲間が、街のごろつきに絡まれた。その時に、旅の商人を名乗るイスミールが助けてくれた。
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