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□親バカの憂鬱。
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「ほな、始めるでー。」

白石のその一言で、騒がしかった部員達が練習を始める。
全員が練習を始めたのを見届けると、白石は一度頷き、ラケットを握った。
今日は試合形式の練習。
白石は自分のパートナーを探すため、あたりを見回した。
謙也は財前と組んでいるし、ユウジは小春と組んでいる。
千歳はふらりと立ち去ってしまったし、小石川はレギュラーではない誰かと組んだようだ。
まだ組んでいない様子の銀を見つけ、声をかけようと口を開いたが、

「師範ー!俺と組まへん?」

「せやな」

誰かに遮られた。
これで、レギュラーのパートナーという椅子は埋まってしまった。
さてどうしようか、と再びあたりを見回すと、走ってくる金太郎を見つけた。

「スマン白石、遅れてもうた!」

白石は焦っている金太郎に微笑みかけながら、

「大丈夫やで。それより金ちゃん、今日は試合形式の練習や。俺と組まへん?」

さり気なくパートナーにと誘う。
白石が怒っていないことが分かったのか、金太郎は安堵の息を吐いた。

「もちろんや!ちょお待っとってな!」

金太郎はにっこりと太陽のように微笑んだあと、自分のラケットを取りに部室へと走る。
その小さな背中を見送りながら、

「走って転ばんようになー」

と声をかける。
まるで弟のようなその仕草に、白石の頬が緩んだ。

(ホンマ、かわええなぁ…)

「白石、自分犯罪者の顔しとるで。」

「犯罪者!?」

「幼児誘拐。」

ぼーっと金太郎の帰りを待っていた白石を見て、悪戯心に火がついたのか、ユウジが茶化すように声をかけた。
まさか犯罪者と言われるとは思わなかったのか、白石はびくりと肩を震わせた。
犯罪者呼ばわりされた上に、罪が幼児誘拐と言われれば、いくら白石でも黙ってはいられない。

「うっさいわ。死なすど。」

と、ユウジお得意のセリフで返した。
さりげなく馬鹿にされたのに気付いていないのか、ユウジはカラカラと笑った。

「さすが白石やな。ほな、練習に戻るわ。…小春うううぅううぅううっ!!」

ユウジは視界に小春の姿を捉え、スピードスター顔負けの速さで走り去った。

「白石ー!!待たせたなー!!はよやろーや!!」

金太郎が行きと全く同じスピードで帰って来る。

「よっしゃ!…でも金ちゃん、大車輪山嵐はナシな。」

えーっ!?っと不満そうな声を聞きながら、白石は再度ラケットを握った。



これから、大波乱がおこるとも知らずに。



















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