NARUTO【テンカカ】
□これが、恋
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◇◇◇◇
「では、失礼します」
火影へ報告を済ませて退室したときだった。
「よっ!」
暗部装束のテンゾウに向かって、そんな風に気軽に声を掛ける人は数少ない。
誰だろうと振り向いた視線の先には、思いも寄らない人物の姿があった。
「・・・カ、カ、カカシ先輩っ!」
テンゾウは驚きのあまり、視線に移った姿を捉えて声を発するまで数秒かかってしまった。
「何よ、そんなに驚かなくてもいいでしょうが」
そんなテンゾウの態度に笑いながらカカシが言う。
「失礼しました。まさかこんなところでカカシ先輩にお会いできるとは思っていなかったものですから」
テンゾウは数ヶ月振りに口に出して呼んだ名前を懐かしく感じていた。
「久しぶりだね、元気?」
今までと変わらずに接してくるカカシだったが、目の前の姿は暗部の面影は残っていなかった。
口布は相変わらずだが、面をしない分直接顔を拝めるというわけではなく額当てで片目を隠していて、忍ベストを着込んでいるのだ。
慣れないせいか、別人のように遠い存在に感じる。
「はい」
返事をしながら、テンゾウは面をしていてよかったと思っていた。
目の前の姿のカカシに少し戸惑っている表情を向けていたから。
「そ、よかった。んじゃ、報告してくる」
そう言って、先ほどまでテンゾウが報告していた火影室のドアに手を掛けた。
「カカシ先輩!!」
思った以上に大きな声で呼び止めたかもしれない。
「? どしたの? テンゾウ?」
「あ、いえ、すみません。あの・・・」
偶然とはいえ、数ヶ月振りにカカシに会えたのだ。暗部という同じ部隊でなくなった今、次いつ会えるかわからない。
カカシが暗部を去ってからというもの、気付けば目の前の人物のことを考え続けていたテンゾウにとって、このままこの場を去るのは躊躇われた。
「ん?」
正直に言えば、もう少しカカシと話をしていたい。だが、カカシの都合もある。
呼び止めたものの、何と言えばいいのか迷いながらもテンゾウは話し始めた。
「その・・・、僕、今日はこれで任務終了なんですが・・・カカシ先輩、この後何か予定とかありますか? 久しぶりにお会いする事が出来たので、食事でもいかがかな・・・と思いまして・・・」
一緒に任務をする事が多かったとはいえ、個人的な付き合いは殆どとっていない後輩から、いきなり食事に誘うのはおかしくないだろうか。
そんな事を考えながらテンゾウはカカシの様子を伺う。
「・・・この後、食事ねぇ」
即答で断られると思っていたが、カカシは考え込んでいた。
テンゾウがカカシの存在を知ってからというもの、男女問わず人気があるのは噂通りで、予定が入っている可能性が高い。
だが、テンゾウは変な下心などなく、純粋に先輩と一緒に過ごしたいという感情だけで食事の誘いを口にしたのだが、カカシにはどう映っているのか心配になった。
「カカシ先輩・・・、都合が悪ければまた・・・」
「ね、食事には酒も入ってる?」
テンゾウの言葉に被せるようにカカシが問いかけた。
「え?」
「なんか今日は食事っていうか、酒って気分なんだよねぇ」
「酒ですか・・・?」
カカシと一緒に過ごせるのであれば、テンゾウにとっては酒でも食事でもどちらでも良かった。
テンゾウは今年から酒が飲める年齢になったが、あまり飲む機会は少ないが、酒には強い方だ。
「そ、酒込みで勿論テンゾウの奢りってんなら、行ってもいいよ。この後」
「本当ですか?」
まさか、この後付き合って貰えるとは思わなかった。奢りという条件付でも断る筈がない。
「うん、奢りなら、ね」
「はい、任せてください!」
給料日はまだ先だが、なんとかしのげなくはない。少しだけだが蓄えもある。
「いやぁ、助かるわ。上忍師って意外に薄給でさぁ。じゃ、直ぐに報告すませるから、そこらへんで待っててよ」
「はい、では後ほど」
面で隠れていて見えないが、カカシに笑顔でそう告げると、テンゾウはその場を後にした。