NARUTO【テンカカ】
□家族
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「テンゾウ・・・オレと別れてくれない?」
疑問系にしたのは、本当は別れたくないと思っているカカシの気持ちの表れだった。
好きな相手に平気で嘘をつく恋人なんて最低だとカカシ自身感じていても、それを気付かれまいと平気な顔を装う。
「へ?」
大きな目を見開いて、テンゾウは固まっていた。
「話はそれだけ、今までありがとね」
カカシはその場を去ろうと立ち上がる。
「・・・先輩?」
これ以上長居をしていたら、テンゾウと別れたくない気持ちが勝ってしまいそうだった。
「んじゃ」
テンゾウへの気持ちはもう無いと思わせる様に、出来るだけ明るく振舞う。
「ちょ、ちょっと待ってください」
「なに?」
瞬身で去ろうとするカカシを呼び止めたテンゾウはカカシの側までやってくる。
「なに? じゃありませんよ。いきなりどうしたんですか?」
テンゾウにとってはいきなりでも、カカシは随分前から決めていた事だった。
自分に言い訳をして今日までずるずると先延ばしにしていただけなのだ。
「僕は別れるつもりはありません」
「・・・・・・っ」
テンゾウからそう言ってもらえただけで充分だった。
テンゾウがカカシに好きだと告白して付き合ってくださいって言われるずっと前から、テンゾウの事が好きだった。
今でも好きなのは変わらないし、これから先の人生でテンゾウ以上にカカシが誰かを好きになる事はないだろう。
黙ったまま姿を消すことも出来たが、好きだと気持ちを伝えてくれたからこそ、
きちんと終わりにして区切りをつけたかった。
「と言われてもねぇ。もう、テンゾウの事好きじゃないから別れるって言ってんのよ」
「本気で言ってるんですか?」
カカシは黙って頷く。掴まれた腕にテンゾウの指が食い込む。
テンゾウはカカシが本気で別れたいと思っていると信じていなかった。
冗談でする話にしてはたちが悪すぎる。
カカシの真意が分からずテンゾウは怒りを露にする。
「だったら、僕の目を見てちゃんと言ってください!」
どうせ別れるなら、気持ちが残ったままより嫌いになってくれた方が良かった。
別れてもテンゾウを縛り付けるような事はしたくない。
カカシは感情を殺し、あえて突き放すような言葉を選んだ。
「さっきも言ったけど、オレはもうテンゾウの事好きじゃないから別れたいの。
好きじゃないのに恋人同士の付き合いを続ける意味なんてないでしょ?」
カカシの言葉にテンゾウは一瞬耳を疑った。
「だいたいさー、男同士で今の関係を続けていくなんて無理があるし、
どうせなら、昔みたいに先輩後輩の間柄に戻った方がお互いいいんじゃない?」
テンゾウはカカシの事が好きだからこそ別れを受け入れるなんて出来なかった。
なのに、カカシの口からはテンゾウの気持ちを無視した言葉ばかりで、テンゾウの怒りは増していた。
「・・・わかりました。・・・そんなに別れたいんでしたら別れましょうか」
テンゾウは怒りを抑えながら、それだけ言うと掴んでいた腕を離す。
勿論本気で別れたいなどと思ってはいなかった。
カカシが反論なり何か行動を起してくれることを期待したが、カカシは表情を変えず、ただテンゾウの目を見つめているだけだった。
「もう、顔も見たくありません。出て行ってください」
そのことに無性に腹が立ち、テンゾウは初めてカカシに対して酷い言葉を突きつけた。
一瞬カカシが表情を曇らせたように見えたが、テンゾウは怒りのあまりカカシの感情を読み取ることは出来なかった。
「・・・・・・」
(ごめんねテンゾウ。ごめん・・・)
カカシは口には出せずに何度も心の中で繰り返していた。
(これで――これでいいんだ・・・)
テンゾウから一歩離れ、瞳にはテンゾウを写したまま、カカシは瞬身でその場から姿を消した。