小説:ランダム短編→2

□月桂樹
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ドン・ボンゴレの希有な能力。
数ある素晴らしい能力は全て他を寄せ付けず、しかし、圧倒的な力で君臨しているにも関わらず、その力は惜しみ無く与えられる。
この、差し延べられた手が、彼の権力をさらに強め、自分を彼の下に付けるものだとしても。
この手の誘惑から逃れられるのか。
この手を振り払った後悔から逃れられるのか。

矜持ではなく、魂の叫びを取ろう。
屈した膝に付いた泥を嘲笑われても、甘んじて受けよう。
ーーーでも、少しだけ待って。

「ユニ、来てくれるかな?」

甘い声が誘うーーー地獄に望んで住まう自分を誘うのだ、天国へと。

「遅くなって、ごめんね」
「……謝らなくて、いい」
「でも、ラウラは」
「お母様の事は、あなたのせいじゃない」
「……そうだね」

優しい笑み、優しい手、優しい声ーーー穏やかな空気が、私に与えられる。
初めて会った時を、全ての瞬間に思い出す。
ーーー敵なのに、敵なのに。
なのに関係なく、呪いに苦しんでいるのを放っておけないのだと、困ったような少し頼りないような笑顔で私を見つめてくる。
今日も、その瞳が私を捕らえる。

「……話、だけど」
「うん?」
「……まだ、考えさせて」
「それはいいけど。これは君個人との取引だから、君のファミリーとの関係を今と変える必要はないよ」
「……それはそうかもしれないけど」
「……わかった。考えといて下さいね」

微笑みは、亡き母よりも余程柔らかいものだというのに、その裏に潜む強さに惹かれずにはいられない。

「……もう、少しだけ」

俯く視界にボンゴレの手が現れ、私の手を取り、小さく口付けた。
唇に触れた指先が、燃えるようだ。

「では、また改めて」

立ち去る背中を追って、閉まるドアの向こうに黒衣のアルコバレーノを見つけた。
全てを見透かし嘲笑うような、威嚇するような、妬むような視線が、微かに私をかする。

黄色いおしゃぶりの、かつての赤ん坊さん。
違うよ。
私は怖がりなだけ。
私は、あの手を握り返したら、離せなくなるのが怖いだけ。

ファミリーも体も心も全て、ボンゴレに捧げてしまうだろう自分が怖くて、
ファミリーを盾に立て篭もっているだけ。



報われない恋に飛び込むだけの勇気を下さい。

ねえ、常緑に艶めく月桂樹。
私に勇気を。
この指先に口付ける、ささやかな勇気を。



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なんでユニ?
ていうか、イタリアンな女性名をラウラしか見つけられず、ユニ母をラウラにしてみた。
……しかし名前で呼ぶ意味はないし!!

ラウラ=月桂樹、です。

たぶん原作の時間軸として、ユニツナは有り得ないんだけどね。

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