小説:ランダム短編→2

□車窓から
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車窓から。


綱吉は、ドン・ボンゴレになった。
会えなくなった。
触れなくなった。
声が聞けなくなった。
からかえなくなった。

眺められなくなった。

……なのにこいつは今、俺と列車に揺られていた。


「なぁ、つまんないよ」
「あと1駅」
「1駅って、何時間かかるんだよ」

何十分もかからないよ、なんてほんわかした笑顔を向けられた。
緊張感ねー。

ガタゴトと鳴る列車から見える風景を、通路寄りに座って眺めている。
向かい合って座って、そんな綱吉を眺めている。

海が見たいとか言いやがった。
わがままだ横暴だと反論したが、出先のホテルから獄寺隼人を出し抜いて列車に潜り込むことまでやらされた。
何したいのかわからないし面倒臭い。
連れ出した綱吉は外を眺めてるだけだし、列車は1本しか走ってないから足はついているだろう。
こんな馬鹿げた逃亡なんて、ありえない。
イライラする。

「なー、綱吉ィ」
「あのさ、ベル。お願いがあるんだけど」

ガタゴトと音を立て、駅から列車が発車した。
また1つ駅をやり過ごした。
ピリピリしている俺に、綱吉は真顔で向き合った。
首を傾げる。
お願い?
マジありえねー。

「海まで行けたら、また一緒に出掛けてくれる?」

綱吉は、腰を浮かすと窓に近付いた。ガタガタと音を立てて開いた窓から、潮風が入ってきた。
俺は、仕方ないから、通路の様子を伺う。
さっき乗り込んだ人間が、まだ通路を歩いてるだなんて、ありえないだろ。

「海って、どこからが海?」
「見えたら、海」

通路の端に黒服を見つける。まだ余裕ぶってるのか、目立てないからか、綱吉が逃げないと思っての余裕か。

「あ」

思わず上げた声に、綱吉も窓の外から反対側の風景を見る。
広がる海原。
いつの間にか、列車は向きを変えて海岸線を走り出していた。

「じゃ、またよろしくね」
「まてよ」

姿が消えた綱吉の後を追って、窓から滑り出る。
すぐに上から手が下りて来て、引き上げられる。

「あと何駅」
「1駅」

遮るものがない景色は、やたら綺麗な海だった。

「海、もう来てるじゃん」
「そうだよね」
「おまえ、王子をこき使いすぎ」

珍しく頑張って仕事終わらせて会いに行ったら、この逃走劇だ。やってらんねー。

「だって、俺がしてやれることなんて、誕生日に一緒にいてやることくらいだったから」

しれっと言われて、目を見開いて綱吉を見ると、目が合ってすぐに反らされた。
なんだ、忘れてたんじゃなかったんだ。

「……仕方ないね、俺は王子だから、姫のわがままは聞いてやるよ」
「だから、姫ってのだけは止めろよ」

照れる綱吉を引き寄せると、拗ねた顔が見えた。
今日は特別な日だから、わがままを聞いてやる。

「じゃあ、行こうゼ」

顔を見合わせてから、ひょいと列車から飛び降り、手を握ると海に向かって歩き出した。



20081223

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