小説:ランダム短編→2

□White Snow
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「雪が降り積もったな」

そう言ったのに、あいつは口の端を歪めただけだった。

「足音が消えて好都合、だよね」


ーーーかつて、小さな子供らと小さな子供みたいな級友たちと混じって雪と戯れていた子供は、そこにはいなかった。
白いスーツに白いコート。
唯一の色彩といえる茶色の髪には雪が積もって、頬からも血の気を奪う。
構える銃の無慈悲な黒さに、己を重ねるのは間違えではないだろう。

「ツナ」
「しっ」

ツナは小さく合図を送り壁から離れると、通路の奥に向かって銃をぶっ放した。
軽く弾けるような音が、倒れた男と同じ数だけ響いた。
百発百中で無慈悲に撃ち抜き、冷酷なまでに死なせない。

ーーー死神が育て上げた、聖母。

単なるイタリアの巨大マフィアでしかなかったボンゴレを、世界規模の地位に昇らせたボス。
法を守り常識を優先し、クリーンな体質に変身させた奇跡の東洋人。
誰をも魅了する微笑みで争いをなくし、かつての無法の場所に平和をもたらした。

一方、決して死を与えず、次々と敵を寝返らせては手駒に加える呪術使いとも、恐れられる。
あたかも、かつての仲間がゾンビとなり身を喰らいに来るようだと、新しい同盟の者はその悪夢を語る。
闇に紛れて消える者がいる事実も、さらなる恐怖を煽る。
彼の視界に収まった者に与えられる選択肢は2つだーーー人知れず消えるか、人を捨てて神に支配されるか。

超直感と叩き込まれた一流の技術の前に、敵はいなくて。
俺は、これ以上ツナが心を壊さないために、ツナに逆らう人物を消すために奔走する。


「ああ、プレゼントだ」


場違いな言葉に、眉を寄せてツナを見ると、倒れた男の服を探っていたツナが赤い小さな箱を取り出した。
金色のリボンのついたソレは、ひしゃげていたが温かな思いを冷めゆく体に負けじと持ち続けていた。

「クリスマスだね」
「ああ、ホワイト・クリスマスだぞ」

どやどやとやってきた、後方支援をしていたバジルたちに後を任せて歩き出す。
俺がいると仕事後に歩けるからと、ツナは俺を連れ歩く。
自由にならないボスの求めるささやかな自由のために、今日も俺はついていく。


サクサクと、雪が軋んでその身を崩し壊れていく。
吹雪いているわけでもないのに、ツナは雪に溶けそうなまでに白い。

「なあ、リボーン。今からでも、ボンゴリアン・パーティをやってもいいんだぞ?」
「オレはおめーのお守りっつー、大事な仕事の最中だ」
「そうだったね、ありがとう」

柔らかな声に、騙されそうになる。本心からの言葉みたいだ。
だが、そこに心はない。
殺し続けて、死んでしまってる。
……俺が、殺し続けた。

いつの間にかついた公園の片隅に立つ、1本のモミの木に、ツナが寄り掛かる。
バサリと落ちてきた雪が、俺の肩にぶち当たって俺さえも白に染めようとする。

「俺さ、リボーンがあんなパーティーとかばっかりやってた訳、やっとわかった」
「なんだ?」

ボンゴリアンと名を冠したパーティーは、荒唐無稽で季節行事である以外、何らかの意味があるのかと問われたら趣味以外のなんでもないものだった。

「リボーンはさ、人間じゃなくなっちゃったから、人間ぽさが消えないようにしてたんじゃないかなって」

そう思うんだ、と、昔みたいに笑う。それこそ、人間みたいに。

「それで俺はさ、そういうの嫌がったじゃない。だからさ、だんだん人間じゃなくなっちゃった。
せっかくおまえが、俺のためにやってくれたのに」

白い息を吐く。真っ白だ、何もかも。
空気も景色もおまえもおまえの中身も。

カンペキに作り上げた生徒は、俺を越えて人間ではなくなった。
それだけのことだ。
それを望んだのは俺自身だ。
俺が出来ることは、降り注ぐ弾丸が放たれる前に敵を撃ち殺し、降り懸かる雪の塊を代わりに被るくらいなもんだ。

それと。

おまえの側にいること。


「気にするな。どうせ俺も、おまえと同じ場所にしか行けない」

行き着く場所は、互いに地獄しか有り得ない。

きっと、今いる真っ白な雪の中のような、何もない世界なのだろう。
だが、ツナさえいれば、それでいい。

「メリークリスマス」

突然の言葉に面食らい見開く瞳の色に、最後の色彩を見付ける。
おまえが見失ったのなら、俺がおまえを人間だと思い出させてやる。

「メリークリスマス」

返ってきた微笑みは真っ白で。

俺はさっさとこの男の体を温めて、体だけは人間なんだと思い出させてやろうと、
奴と一緒に歩き始めた。


20081224

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