小説:ランダム短編→2

□餅誕「見るだけなら、大丈夫かな?」
1ページ/2ページ

(綱吉中1かな?持田先輩が部活やってる頃だから。)


「さわだ…?」

小さく返ってきた反応は、ギャっという悲鳴。
並中近くの小さなスーパーに、部活の買い出しに来ていたら、遠くにうす茶色の爆発頭があって、思わず声をかけた。
なにやってんだ自分。逃げるか隠れるか、いつかの御礼参りをする場面だろ!!
だが、黄色い買い物カゴを抱えた沢田は、そんな緊迫感あふれる俺たちの関係を吹っ飛ばすような格好をしていた。

「えええええ………っと、持田…センパイ……」

沢田は視線を周囲にさ迷わせるが、俺がひとりだとわかり、少しほっとしたようだ。かくいう俺も、沢田の回りに最近いろいろついている俺より背が高くて俺より顔が良くて俺よりモテて俺より強いという噂の奴らがいなくて、ほっとした。
あの一悶着(黒歴史)を知っているらしい奴らは、俺が沢田に気付くより先にガンを飛ばしてくる。
だから、正直、沢田を見ると訳もなく(訳はあるか)恐怖心が湧いてしまうのだ。

「あ、の…」
「エプロン」
「?」

じっと見ていると、俺から目をそらさずにおどおどと見ている沢田に告げて、わかってない奴に指をさす。
沢田は視線を指さされた自分の体に向け、ギャッと本日二度目の悲鳴を上げた。
どう見ても女物の、うすいピンクのフリルがついたエプロン。柄がないので、新婚さんみたいだ。
………新婚さんて、何だよ。

「あっ、ぎゃっ、もうっだから母さんこんなの…」

どうやら母親のエプロンらしい。ちょっと安心した。いやいや、そんな趣味してたのかとか心配したんであって、どっかの誰かと新婚ごっ…。

「ぎゃああ!」
「うえっ?」
「いや、何でもない!!」
「ええっ?」

自分の想像にのけ反るが、すぐに現実に復活!!さすが俺様!!

「俺は部活の買い出しだが、おまえはどうしたんだ?」
「あ、母さんが」
「ママのお手伝いか」
「いえ、母さんが俺のお菓子作りを手伝ってくれるっていうから、材料を買いに来たんです」
「お菓子…」
「はい」

ママをスルーした上に、さらに馬鹿にされそうなお菓子作りたぁ、ダメツナっぷりが光ってる。
が、女々しいと思うより先に、何を作るのか気になった。
そこに。

「持田センパ〜イ、さっき聞こえた悲鳴って」
「あれ〜?センパイといるの、ダメツナですか?」
「あ、おまえら」

振り返ると1年坊主どもがぞろぞろ現れた。カゴには大量のスナック菓子。

「あ、それじゃ、失礼します」
「ああ」
「センパ〜イ、誕生日だからって、こんなに買っていいんッスかー?」
「え?」

帰りかけた沢田が振り返った。KYだと思ったが、ナイスだ可愛い後輩!!

「誕生日ですか?」
「そうだ!!今日は俺様の誕生日だからな、後輩どもが俺のために菓子を買いたいとねだってな」
「へ、へぇ?」

後ろで先輩が連れて来たくせにとか言ってる奴をひじ鉄で黙らせる。でも沢田、ばっちり気付いたがスルーしたな!!よし!!

「なんだ、沢田も俺様を祝いたいのか?」
「え、あ、それは」
「遠慮するな、菓子1つで許してやる」
「それじゃ」

慌てて言う俺に、怯えていた沢田が、いきなりふんわりと笑った。
え、と周り全てのことが頭から吹き飛んだ。いや、俺も後輩も、止まった。

「明日、ホワイトデーでお返し用にクッキーを作るんで、そのついでですみませんけど、作ったら後で持って行きます」
「おう」
「剣道場でいいですか?」
「ああ」
「じゃあ、皆さんの分もだから買い足さなくちゃ…」
「俺のだけでいい」

先輩ズルイって言った奴を沈める。
きょとんとした沢田に、ごまかすように笑うと、ははっと軽やかに笑い返された。

「誕生日、ですからね」
「そうだ」
「じゃあ、また後で」

今度こそ行ってしまう。見送って、背中に揺れるエプロンのちょうちょ結びが可愛いなぁなんて思って、我に返った。

「可愛いだとお?」
「わ、いきなりなんスかセンパイ!!」

わたわたする後輩どもを睨んでごまかすと、外に向かう。

「どこに行くんスか!!まだお会計が」
「早く帰って道場の掃除だ!!」
「センパイ!!センパイがサイフ持ってるんですよね!!!!」
「うわー、待ってください〜!!」

すがりつく後輩どもをなだめて、俺は沢田を迎え撃つために、学校へと駆け出した。



→おまけ
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ