小説:ランダム短編→2

□この場所で生きる君の雨を払う。
1ページ/2ページ

それを見つけたのは、偶然だ。
それを誰よりも早く、たったひとりで見つけたことは、奇跡だ。

それの頬に光る涙と向けられた透明な瞳に、自分が焼かれて死ななかったことも、奇跡だった。



「う゛ぉい、何をやってる」
「ッ!!」

びくりと跳ね上がった肩ーーーじゃねぇで足まで浮いた気がするくらい全身で跳ねた。

「驚き過ぎだぁ」
「あ…、ス、ク…」
「スクアーロだぁ」
「スクアーロ、さ、ん…」

うつむいて、必死に顔をさりげないふりして拭っている。ため息が出る。

「呼び捨てにしやがれ、ボスだろ。それから」

手首を持って両腕の動きを封じると、体が硬直した。だが、瞳に浮かんだのは恐怖や警戒心ではなく。

ーーー静かな威圧。

クッと喉が鳴る。
怒りも嘲りもなく、静かに見返す瞳に、背筋がぞくぞくしてくる。

「何もしねぇ。ただ、擦ると跡になる。……ハンカチくらい持ってるだろぉ?」
「あ…」

張り詰めてた冷たい空気が霧散する。手を離すとポケットを探ってハンカチを取り出す。それを奪う。

「え」
「貸しな。てめーじゃ、擦るだけだろ」
「う、……うん」

図星だったらしく、うつむいてしまう。小さくため息をつくと、また肩が跳ねる。
指で顎の先を持ち上げると、一瞬上がったまぶたがすぐに伏せられた。
目を閉じ、静かに俺の方を見る様子は、俺に何もかも委ねてるみたいだ…。

「あ゛ー」
「どうしたの、スクアーロ」
「んな゛!!」

名前。
開かれた目に何の熱も見つからなくて、がっかりした自分に呆然とした。なんだ?何かを期待いていたってーのか?

「…拭くぞ」
「うん、お願いします」

目が閉じられる。頬にハンカチを押し当てると、柔らく押し返される。
まだ子供の感触のままの頬をハンカチ越しに押す。輪郭だけは大人になろうとしているような、昔見た時のような危うさは影を潜めた。
瞳も、もはや危うさから縁遠いだろう。最初見た時とのギャップに笑えてくる。
それと、さっき見た、はかなげな…。

「もう泣くなぁ」
「もう止まったよ」

右の目の下瞼がやや赤くなった奴が、強気に言い返す。
どうやら、こっちが本領らしい。ほっとした。

「まあ、ここなら誰も来ないからな。気にすんな」
「……ここって…?」
「ヴァリアー本部の裏庭だな。あそこの窓が、ボスの執務室だぁ」
「ええ!!」
「驚き過ぎだぁ」
「あ……。あははは!!」

目を見開いて、いきなり笑い出した。逆に驚いていると、笑ったーと指で浮かんだ涙を拭う。
その手をつかんで、持ったままだったハンカチを押し当てる。

「ありがとう、スクアーロ」
「泣きたくなったら、この場所がオススメってこった」
「うん、そうみたいだね。ありがとう」
「例を言われる意味がわかんねぇぞ」
「そうだね」

もう大丈夫かと、顔からハンカチを離して、そのまま手に押し付ける。
受け取って、にっこりと、それこそ外見を裏切るくらい華やかに笑った。

「……理由を聞かないんだね」
「むやみに口にして、誰か他人にエサをばらまくこともないだろぉが」
「スクアーロのエサにはならないんだ」
「……泣いてただけでも、十分だってんだ。まぁ、俺はそんな程度のこと、どうしようとも思わないがな」




次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ