小説:ランダム短編→2
□Hearty Party
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「あの、ね」
京子ちゃんに呼び止められ俺は、ひとつ、お願いをされた。
それは、たぶん俺もどこか望んでいた願いだったから、当然うなずいて約束をする。
そして別れてひとりきりになると、電信柱の陰で携帯電話を取り出して、電話をかけた。
1コールで出た男もまた、柔らかい声で承諾をした。
そのくらい、俺にも骸にとっても、クロームは大切な存在なんだ。
3日後。
祭日のお昼過ぎに待ち合わせる。並盛の商店街のはずれに現れたクロームは、膝上丈の白いワンピースに黒い男物のコートを着て立っていた。
「ごめんね!!遅くなっちゃった」
姿が見えた瞬間から走り寄ったら、小さく小刻みに首を振られた。
「まだ時間じゃないよ、ボス」
「でも、待たせちゃったんじゃないかな?」
「……私が、早く来ただけだから…」
消え入るような声で、うつむいてしまう。小柄なクロームは背が低い俺よりさらに低くて、表情が見えない。
「クローム。待っててくれて、ありがとう」
「っ」
「じゃあ、行こうか」
はっと上がった顔が、見る間に赤くなる。それに気付かないふりをして、背を向けて歩き出す。
少し後ろに、ついてくる気配がする。
たまに振り返ると、驚いたように目を見開かれる。潤んだ目が、零れ落ちそうだ。
距離は数歩分離れている。でも、それはクロームが精一杯近付いてくれた距離だ。
ーーーいろんなことに臆病になってしまっていて、人に近付くことも出来なくなってしまったのですよ。
そんな甘い言葉を吐いた奴の、穏やかな表情を思い出した。
ーーーなのに綱吉君には最初から近付いてキスをしたのはなぜでしょうかね?
イヤミも思い出した……、ちぇ。
「クローム。着いたよ」
住宅街の中にある、少しだけ広い敷地のお家の前で立ち止まる。チャイムを鳴らして、クロームに微笑みかける。
はぁい、と澄んだ声と共に現れたのは京子ちゃんで、クロームとは会ったことはあるけど話したことはない。
「いらっしゃい、ツナ君。クロームさん」
にっこりと柔らかな空気を振り撒きながら、京子ちゃんが俺からクロームに視線を動かす。息を飲んだクロームが、視線をさ迷わせて俺を見る。
「ボス…」
「笹川京子ちゃんだよ。了平さんの…晴の人の妹さん」
「晴の人の…」
小さな声でやり取りして、クロームはようやくまっすぐに京子ちゃんを見た。京子ちゃんはにこにこしながら、待っていてくれてる。
「京子ちゃんって、クロームも呼びなよ」
「うん、私もクロームちゃんって呼ぶね?」
「っ!!」
また俺を見る。深くうなずいてみせると、怖ず怖ずと京子ちゃんを見た。
「みんなも待ってるからさ、入ろうよ」
まだ呼びかけるのは無理っぽい。
京子ちゃんが導き入れるから、クロームを促すけど動かない。俺から入った方がいいかな?
「行こう、クローム」
「……はい」
京子ちゃんの様子を伺うみたいな視線を感じる。
つんと引っ張られる感触がして後ろを見ると、服の端をクロームが指先で掴んでいた。当のクロームはキョロキョロと辺りを見回すのに忙しい。
京子ちゃんちの、ごくごく一般的な家の様子が珍しいみたいだ。うちはチビたちがいるから、ごちゃごちゃしてるし、了平さんが使うパンチングマシーンなんて玄関にはないからなぁ…。
トントンと階段を上がって、後から上がってきた京子ちゃんが示す通りに左側の部屋のドアをノックしてから開ける。
「いらっしゃいツナさん!!」
「よっ」
ハルと黒川が、女の子らしいサーモンピンクの部屋の、床に敷かれた絨毯の上に座っていた。
こっちこっちとハルに示された場所に座ると、続いてクロームも座らせる。
「あ、クローム、上着」
「こっちに掛けるよ。ツナ君も脱いだら?」
「ありがとう京子ちゃん」
京子ちゃんに上着を渡して、クロームの上着を受け取りハンガーにかける。
改めて座ると、ハルがジュースを渡してくれた。
「えっと、俺が紹介すればいいのかな? クローム、この子たちが友達の、三浦ハルと黒川花と笹川京子ちゃん。みんな、この子が最近知り合った、黒曜中のクローム髑髏。呼び方はクロームでいいよね?」
クロームを振り返ると、こくりとうなずいた。
その手に、ハルから渡されたクロームの分のジュースを持たせてやる。
「クロームちゃん!!私、ハルです!!よろしくお願いします!!」
「花って呼んで。よろしく」
黒川、クールだな。ハルは興奮し過ぎた様子で体を乗り出す。俺が間にいて良かった…。俺がいるっていうのにクロームの体が後ろに引いてるってば。
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