小説:ランダム短編→2

□=詩を詠む乙女=
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=詩を詠む乙女=


「よく来ましたね、ここは聖なる詩人の島です。俺は、ツナヨシ。あなたは波に運ばれて、この島に流れて来たんですよ」

下働きの女性に連れられて、この島を統べる聖人の目の前に立つ。
ふわふわと穏やかな風に遊ばれる髪、朝焼けの黄金色の瞳がとろけたように優しく細められ、ボクを見る。
太陽神に愛された証のような黄金の少年だった。

「ずいぶんとたくさんのケガをしていましたよね。外はーー争いはひどいのですか?」
「そうだね。酷いと言えば酷い。ただ、ボクはあの惨たらしい世界以外を知らないから、どれくらい酷いかはわからないよ」
「……かわいそうに」
「可哀相?」

そんな生易しい言葉と麗しの顔を曇らせ眉を寄せる程度の、世界だと?
白蘭は、口を飛び出しかけた罵倒を飲み込む。何も言わずに、彼がうなずいたからだ。

「あなたの運命は、ここを終の宿とはしていないみたいです。でも、ケガと気持ちを癒すだけでも、滞在してくださいね」
「……ありがとうございます」

面倒事になる前に追い出すのか。そう受け取る気持ちもあるのに、汚れなき聖人は本心から来る言葉を並べているだけに見える。

未来を見透かす、黄金色の瞳。
大層慈悲深いと下女が称した聖人は、絶望の未来を見て口を閉ざしたという。
大局ばかりを見据えるには、脆弱な体と傷つき易い精神を持っているようだ。

初めて、兄以外に興味を持った。
ボクの運命の糸は、ツナヨシとの出会いを望んでいる。

高鳴る鼓動は切ないくらいで、手を伸ばすと、戸惑いを漂わせながらも繋がれる。

「ボクの運命を、君の詩にしてよ」

悲しそうに伏せられた目を覗き込んで、重ねて言う。

「君の詩の運命の主人公は、ボクだ。ボクの運命の担い手は君だ」
「……それは、違うよ」
「違わない」

運命は戦うものだから。戦い、奪い取るものだから。
戦わぬ者に女神は微笑まない。
ただ、この手に剣を握って、返り血で自身を洗うだけだ。

「……せっかく、こんなきれいな白なのに」
「曇りなき白い物ほど、汚したくなるよね」
「せっかく、こんなにきれいな白なのに」
「ボクはきれいじゃないよ。汚れたんじゃなくて、最初から血染めになるために生まれて来たんだから」
「そんなことは、」
「そんなことはあるよ。この世の汚れなき白を目の前に、どんな者でも自分の汚れを突き付けられるから」

握っている手を引き寄せて、腕の中に囲い込む。
きっとこの島は誰かの腕。腕の中でたゆたう悲しみの乙女が涙する雫を拭って、何が悪い?

「運命に逆らうよ。ここにいる」
「運命は絶対だよ。逆らい逃げたら、俺みたいに囚われる」

運命に飛び込まなかった過去を示唆されても、それがボクを止めることはない。

「君の運命なんて、知らない。ボクの運命が、君を欲しいと言ってるだけだよ」
「違う。あなたのさだめは、」

声に乗せたら、きっとこの少年の声を聞き漏らさぬ運命の女神が、彼の言葉を現実とするだろう。
戦うことは相手を傷付けること。例え、相手が君であっても、傷付けることに躊躇はない。
口を、手を体を封じた君の心から血が流れようとも、この戦いは自分のためだから止めはしない。
真っ白く装ったボクに組み敷かれる君が零す涙は透明で、そこに何の色もないか見定めたくなる。
戦う相手は運命だけだ。
涙で嘆く相手も運命だけだ。
心を向ける相手も女神だけだろう、お互い。

この瞳に寸分を惜しむように映り続ける君の瞳に、ボクだけが映るのはなぜだろうね?

「どうせ引き裂かれる呪われるべき関係なら、迷うことなど必要ないよ」
「呪わしいならば避けないの?」
「どうせ、触れられなくなるとわかって我慢する愁傷な性格ではないからね」
「いずれ、思い出しては泣くとわかっていても?」
「それは杞憂だよ」

髪をすいて、唇を寄せる。

「運命はボクらを引き裂けやしない。だから、ずっと一緒にいるよ」

心配しないで、と耳に息を吹き込むと、瞳が閉じられ、

また

透明な涙が転げ落ちる。


血色の涙が、また、ボクの白いばかりの汚れた体を染めていく。



おわる。


=============

運命の女神に翻弄される双子の兄妹の、妹ルートのパロ…のはずでした。
……白蘭の兄弟設定は誰とか何もないです。

20090327に書いて、えろっぽくてビビって封印してた(笑)。
読み返したら大してえろくもなく。




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