小説:ランダム短編→2
□ヴァルプルギスナハト
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(ヴァルプルギスの夜)
ブロッケン山の麓にある洒落た別荘の主が、さぁさぁどうぞとグラスを奨める。
「この日にやってきたのですから、ぜひとも楽しんでください」
やがて開かれた車のドアの向こうからには、空気も熱も言葉も違う歓喜があった。
「ハロウィンみたいね」
「あんな遊びと同じにしたら困るね」
「はは、魔女がいっぱいだ。仲間ばっかりだねー」
行こうかと言って、クロームの背中を押す。続いて出た俺の後ろからマーモン。
今回の護衛を霧で固めた意味がわかった。ついでにリボーンが、やけに素直に行きたいと駄々をこねた理由も。
謝肉祭やらハロウィンみたいな馬鹿騒ぎだ。
見渡す限りの光景には、魔女の格好をしてワインやビールを煽る人々。軽やかな音で弾ける花火。
街も道も家も人も空も、明るく闇に浮かび上がる。
北の国は春を愛して止まない、なんて簡単なようで理解出来てなかったけど、春を迎える祭はいつも華やかで明るくて楽しいばかりだ。
「ところでツナヨシ。なんでドイツに来たの?」
「ん、花見の話をしたからかな?招待されたから遊びに来たんだよ」
「ハナミ?サクラはないよ?」
マーモンの疑問ももっともだ。
招待してくれたドン・カルカッサは、春を楽しんで欲しいと言っていたし。最近懇意になった旧知のファミリーとの純粋な懇親だから、単純に楽しめばいいんだよ。
もっとも、あちらさんが「魔女」に食いついただけってのが真相だけど。
クロームの参加は必須。マーモンはブロッケン山と聞いて食いついて来たから。
「クローム、それは美味しい?」
「……ボスも食べる?」
「うん」
「ツナヨシ、これも食べなよ」
「ありがとう」
黒いマントを元から隊服にしてるマーモンすら、周囲にちらほらいる仮装に紛れて目立たない。
マントを羽織った眼帯をした黒髪の少女(東洋人は何歳になっても子供扱いだ)は、偏見なんてとんでもない称賛と羨望に囲まれる。
「しかし壮観ですな、両手に虹と守護者とは」
「あなたも虹の1色をお持ちでしょう」
「あの人は派手な役割より隠れて裏にいるのを好みますからね。軍師が先頭に出るのは弱い証だと言うので、任せてます」
「うちのにも聞かせて、おとなしくさせたいもんですね」
「いやいやいや、弱小ファミリーの戦法なんて、実力者揃いのボンゴレには」
「だからって、前に出るのが好きな人間を押さえるのも面倒ですよ」
鼻を鳴らす。美味しい酒も入ってるし、元から旧知の間柄だ。彼の発言を失言と取ることはないし、ダブルの霧のカモフラージュで会話も外に漏れない。極めて気楽だ。
「そ、それで、霧の方は…」
「どっちの?」
「あ、守護者の」
「クロームは名前を呼んでも怒らないから名前でどうぞ」
「はい。クロームさんは、こちらにいらしてもよろしいんですか?」
「……クローム?」
「ボスの近くに、いる」
「護衛の任務ですし、近くに置いてますが…。先程から何度かその質問をされてますが、女性に聞かれたらまずいお話でも?」
マーモンもいるしクロームが離れようが問題ない。もっとも、姿が見えないからといって会話を聞かれないとは限らないのが霧の幻覚だ。
くぴりと2杯目を傾けていたクロームが、グラスを置いた。珍しく今日は、飲んでるし食べてるなぁ。
「あの、祭へは?」
「今、連れて来て頂いてますが?他に会場があるんですか?」
「いえ、あの…」
ちらりちらりと明るい空に浮かぶ黒いばかりの山影に目を向ける。
ブロッケン山には入らないと聞いてたんだけど?
彼の瞳を正面から捕らえて、じっと眼をこらす。
超直感なんて失礼だし、疲れるから使うつもりはなかったんだけど。
「あ?」
ビクリと肩を跳ね上げたドン・カルカッサに、思わず爆笑してしまった。
霧のふたりもビクッと体を揺するからさらに笑える。
ああ、確かに、「クロームはボンゴレの誇る魔女ですよ」と彼に紹介したし、さらにどうみても魔法使いのマーモンも連れて来たんだ、確信したんだろう。
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