小説:ランダム短編

□ずるい罰ゲーム
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「ツナは、ずりーな」


そう? と返しながら、書類から目を上げ、執務机の前に設置された応接セットのソファに寄り掛かる山本武を見た。

ずるいというのならば、山本の方だろうと綱吉は思う。
右腕という唯一無二の称号を、右腕にならなければ死んでしまい兼ねない獄寺に譲ってからは、特に。
だいたい、今の関係のあいまいさはなんだっていうんだ。




山本が獄寺に右腕を譲った後、執務室には綱吉と山本の2人きりになった。
獄寺は喜びを言い触らしに部屋の外に行ってしまったし、リボーンもいつの間にか居なくなっていた。
罰が悪くもじもじする綱吉に、山本は「罰ゲームだな」と告げた。

「勝負に負けたわけだから、罰ゲームさせろよ」
「勝負じゃないから!!」
「いいや。俺はツナに俺を選ばせられると思ってた。でもツナは獄寺を右腕にしたのな」
「でも、肩書だけの話だからさ、獄寺くんと山本を違う扱いにするわけじゃ…」
「そうかもしれねーけど、野球でもキャプテンやピッチャーとその他じゃ扱いは違ったからな。ツナのせいじゃないけど、勝ち負けで言ったら負けなのな」
「…そうなんだ。……ごめん」

俯いた綱吉の頭に、ぽんと大きな手が乗せられる。
見上げると、山本の笑顔。

「だから、罰ゲームさせろよ」
「…わかった。じゃあ裏庭にタヌキが」
「1番大変なのが、いいのな」
「え、山本が決めるの?」
「いいだろ?」
「…まあ、いいけど」

その時、綱吉はちょっとヤな予感がした。
「山本はいい人フィルター」を通してすら感じ取った超直感だったのだが、「山本はいい人説」は個人の妄想ではなく宗教の域に入っていたため、ブラッド・オブ・ボンゴレの方が打ち負けた。

「ツナってばさ、大マフィアのボスなわけじゃないか」
「残念ながら、そうだね」
「しかも独身で恋人もいなくて、部下や守護者や側近に慕われまくってる」
「そ、それほどでもないような…」
「あるって。あのヒバリさんや六道がついて来たんだゼ? よっぽどのことじゃないと、あの2人も笹川さんもイタリアで就職なんかしないでしょ」

それはそうだけど、と綱吉は山本をキッと睨むように目を向ける。目を見開き見返す山本を、悲しそうに眉尻を落とす。

「だからって、山本まで来なくて良かったのに」
「ひどいな。親友じゃないか」
「離れてても、親友だよ?」
「二度と会えなくても?」
「……それは、たぶん…それでも。ーーー親友だよ」
「そっか、ありがとな」

再び頭に乗せられた山本の手に、髪の毛をくしゃくしゃにされた。

「じゃあさ、1番大変な肩書貰っていいよな?」
「罰ゲームって」
「ああ、罰ゲーム。他の奴らに嫌がらせされまくりの、最低最悪の肩書をやってやるよ」
「ええ!? 山本、いいよ悪いよ!!」
「だから罰ゲームの意味があるんじゃないか!! な、いいだろ?」
「いいもなにも、いったい何の肩書だよ。トイレ掃除はランボが得意だからやらなくて大丈夫だけど」

ぶつぶつと考えていると、目の前が陰った。
山本の気配がやたら近くて、見上げた綱吉の首が痛くなりそうだ。
その首を山本の手が、さらに上向かせる。

「ちょっ、首痛く…」
「黙って」

おとなしくなる綱吉に、山本は困ったような嬉しそうな笑みを浮かべると、その額に唇を落とした。

「な、なに!?」
「イヤ、じゃない?」

今度は頬に、かすめるように。

「イヤ、じゃないけど、…なんで?」
「イヤじゃなければ、いいや」

はあ? と思いきり顔を歪めて見返すピカピカのなりたてボスに、飛び切りの笑顔を向ける。

「じゃあ、決まりな!!」
「……何が!? 山本まで電波だったら、俺もうどうしたらいいかわからないよ!!」

超直感があるから大丈夫じゃね? と言いかけてやめた。
その代わりに、耳に唇を付けて、告げる。

「右腕になれなかったからさ、違う肩書、ちょうだい?」
「う…。それは、いいよってもう言ったじゃん…」
「サンキュ」

ぱっと体が離れる。
綱吉は、真っ赤に茹だった顔を、手の平で冷まそうと頬を包み込んだ。
耳がむず痒い。

「そ、それで、罰ゲームの肩書って、なんだよ」
「まだ、わからない?」
「今の流れでわかるかよ!?」

ふふん、と鼻歌のように鼻を鳴らした山本が、身を屈めて綱吉に目線を合わせた。
綱吉がいくら背を伸ばしたところで、2m近い山本に敵うわけがない。
身体的不利より子供扱いでちょっとカチンとした。
だが、すぐにそれどころじゃなくなる。

「だからさ。右腕より大変な、肩書」


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