小説:ランダム短編

□特別の光
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夢の中でならば、この気持ちを表す言葉を口にできるでしょうか。



吹き渡る風が、微かな水の香りを運んでくる草原。
遠く霧にけぶるような木立を目指し、特に目的があるわけでなしに歩き出す。
どこにいても、変わらない。
いや、水牢に囚われた自身を思うと、どこにもいるわけではない。
ここは単なる意識が遊ぶ夢幻の空間なのだ。
自らが開放さえすればクロームと繋がる、その実、閉ざされた空間。
夢渡りをするための始まりの場所であり、ここに留まる言われのない、自分の意識世界。

クロームを閉め出し、何をやっているんだ。

距離を感じさせないせいか、気付けば広がる湖の辺、湿原のように草の合間に澄んだ水をたたえる場所に踏み入れていた。
ちゃぷ、靴が水を蹴る。
濁らない。
土は黒く富んで、落ち着いた色は滲み出ることはない。
ほどよい木立は木漏れ日を惜し気なく水面に落とし、光が辺りを白く輝かせる。

いつか、街角の旅行会社のポスターが掲げていた、美しく静かな湖畔のバカンスのような。

こんなにも霧が穏やかに流れる場所があるのか。

光を遮り、闇を引き寄せるのではなく、
光に煌めき、その力を暗き場所にまで届けるような。


「いた」


声に振り返ると、木立の奥から君が現れた。

「うわ、冷たっ。…水?」
「そこに居てください、僕が行きます」

爪先が水に沈んだらしい君が慌てるから、そちらへと急いで足を運ぶ。

「骸!!靴が汚れるよ?」
「大丈夫です。ここは夢ですから」

あと1歩のところまで歩み寄り、ほら、と透明な水を滴らせるブーツを示す。
ほっとした顔の君に、目が優しくなったのが他人ごとのように伝わる。

「また、迷子ですか?」
「いいや、探してた」

おや、と思うが必死に自制する。

「アルコバレーノから、僕に何か伝言でも?」
「リボーンは関係ないよ。昨日、会えなかったから」
「……昨日」
「うん」

地下にある水牢は、日の光も月の光も差し込まない。
ただ君が訪れる夢の時間で、1日の時間を知ることができる。
だから、
君が寝る時間に眠らないようにして、君が訪れるこの空間が開くのを封じた。

「何か、あったのか?」

真剣な眼差し。温かく真摯で、打算も策略もなく、僕を貫く真っ白な光の刃。
君が振るう刃の切っ先のせいで、傷ついた胸が痛みます。

「いつものように、何もないですよ」
「……そう?」
「ええ。何も、ありません」

少しの疑惑すら甘い。
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