小説:ランダム短編

□diavolo
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diavolo




朝食の準備を終え、雲雀を呼びに行く。
出ていく気配がして、いる気配がしなかったが、恭さんはいらない時はいらないと言い置くことが多い。
帰ってくるのかと思っていたが、もう9時だ。
朝食は朝食の時間に食べる几帳面さがある人が、大変珍しい。

「失礼します」

すらっと音をたてながら、雲雀の寝室の襖を開ける。
雲雀はいない。帰ってこない。
ならば、布団を片付けてから自分の仕事のために出かけなくては、などと俯いたまま機械的に中に踏み入れ布団を掴んで持ち上げ………ようとして、
持ち上がらなかった。

ごろんと中から、人間が出て来た。

そういえば人の気配はしていたなぁなどと暢気に考えてから、それがあられもない女性というわけではなかったので(そもそも靴も香水もそれらしい声もなかったから予想すらしなかったので)、
気付いたら
「おはようございます」
と口にしていた。

茶色いふわふわした頭がむくりと起き上がり、目を擦って返事を返され、ようやく把握した、ことの事態に心臓が止まりかけた。


「おはよ〜、草壁さん。雲雀さんはー?」

そこには天下のドン・ボンゴレが転がっていた。


(暗転)


はっと気付くと、天井が目に入った。

「起きた?」

直後に大きな茶色い鼈甲飴みたいに澄んでとろりとした目が視界いっぱいになった。

「うわ!!」
「うわあ?」

暢気な驚きの声がして、飛びずさった自分と反対側に鼈甲色の彼ーーー沢田…さんがのけ反っていた。

「驚かせてごめん」
「いっ、いえ!! こちらこそ!!」

心臓がバクバクする。
動揺しまくって、辺りを見回して何かすがる物隠れる物がないかと探すと時計が見えた。
針が、12を…。

「うわーーー!!」
「今度はなにーー!?」

一緒に叫びながら、やたら楽しげに弾んだ声だ。
思わず顔を向けると、満面の笑顔を一瞬で消してうつむき、眉を八の字に下げて上目使いで視線を突き刺して来た。
「あの子はズルイ」
よく恭さんが酒が入ると愚痴っているのはコレか。

「草壁さん…」
「ななな、なんですか!?(動揺しすぎ)」
「俺、お腹が空きました」

タイミング良く、きゅるるるるとお腹が鳴る音が聞こえて来た。
これまでも彼のテクニックだというならば、両手を挙げて投降する以外ない。

「すぐに、昼食を用意いたします」
「ホント!? ありがとー!!」

わあいと万歳して喜ぶ姿は、どう間違っても20歳を越えたようには見えない。
雲雀も年齢不詳だが、初めて認識した中学校時代よりは育ったと言えるものの、学生ーーしかも高校生がいいところだ。
しかもこの国で照らし合わすと、小学生に潜入することすら検討できる幼さだ。ーーーていうか、そんな無邪気で幼い雰囲気だったりする。

「お待ちいただけますか?」
「食堂に行くよ」

立ち上がった姿が、先程っていうか今朝見たヨレた姿ではなく、シャツやスラックスにアイロンこそ当てた跡はないもののそれなりにピシッとしていると気付く。
ネクタイこそ緩んでいるが、まあ、小学生はないよなって出で立ちだ。
ーーー口には出せないが。

「こちらです」
「知ってるよ? 初めて来たわけじゃないんだし」
「すみません」

クスクスと楽しそうな軽やかな笑い声に、頬が熱くなる。
どうしても、子供扱いのようにしてしまうのは、外見に騙されているようだ。

「……草壁さんの過保護」

詰る声に目だけを向けると、ニヤリと笑われた。
初めて見たかもしれない、年齢不相応……いや年齢相応の表情だった。
大人なんだ大人なんだと呪文をぐるぐると繰り返す。


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