小説:ランダム短編

□一輪のバラ
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花を一輪。

似合わないけど、白いバラがいいと思った。

僕にも似合わない、君にも似合わない。
でも、
僕らの関係にはきっと似合いの、

一輪のバラ。



「試算はどう?」

プシュと空気が漏れる音をさせて開いたドアから、沢田綱吉がやってきた。
挨拶抜きで声をかけられ、近くに立つ気配を感じてから顔をあげる。

「ひどい顔」
「そう思うなら、来る前に連絡入れて下さいよ」
「鳥を使って?」
「苔でも使ってください」
「ああ、蔓草で糸電話?」
「無理ですごめんなさいすみません無茶言いました」
「うん、鳥も無理だね」

黄色い鳥じゃなくて、黒い鳥が銀の棒を二本振りかざしてやってきそうだし、
とは言わない。

「バラは?」
「バラ?花の?」
「蔓バラとかあるじゃない」
「なんでバラ?」
「頭が良さそうだから」

いつもながら、すごい論理だ。

「……晴の活性で僕は植物を使うのが得意ですけど、植物を操るわけじゃありませんよ?」
「えッ!?」
「植物専門ですか僕は」
「違うの!?」
「違います」

本気で驚かれてるのが悲しい。
綱吉君は、いつだって予想不能だ。
あの最強のアルコバレーノのお墨付きを舐めたらいけない。確かに凄まじい思考回路だ。
だからこそ、僕と会っているのだろう。

「とりあえず、期日までには試算も出しますけど、今はまだ何も出来てませんよ?」
「うん、そう思ったんだけどさ」

いつもならば、ボンゴレの雲の守護者も同席で、必死になっても話が進まないのに、
今は逆に、話題が途切れて進まない。
二人きりで、居心地が悪いわけじゃないのに、むずむずと落ち着かない。

「……じゃあ、今日は帰るね」
「そうですか。では、来週末に」
「うん。正一さんも体に気をつけて」
「はい」

プシュ、とドアが開く音を背中に聞く。
せっかくの時間を、何にも生かせなかった自分に、二度とチャンスもきっかけもないだろう。
気にかけてもらえることも、会いに来てくれるのも、協力者だからに過ぎない。
必要な場所にいて味方になっているからだ。
たまたまここに居たのが僕だっただけで、ドン・ボンゴレには数多の砂の1粒に過ぎない。

目をぎゅっとつぶると、足音がした。
そういえば、ドアが閉まった音がしていない。
ようやく、ドアが閉じる音がして、振り返ると、視界が白かった。

「来る途中で、咲いてたから」

シルクのハンカチで包まれたバラが、すっと引いて綱吉君の顔が見える。

「誕生日じゃん。一応、お祝いしたかったからさ」

ずっと前に、まだ互いを信じ切れていないけど歩み寄っていた時に、他愛がない話の1つとしてあがった誕生日。
覚えてくれていて、祝おうとしてくれたのか。
自分すら忘れていた日付を、この激務に忙殺されている人が。

突き付けられた花ごと、抱きしめる。

例えば今、雲雀さんが居て次の瞬間殺されたって構わない。
白蘭さんにバレて殺されたって悔やまない。

「ありがとう……」
「よかった、喜んでもらえて」

僕たちの間で潰れながらも肌を刺すトゲで存在を主張するバラ。

血を流さなければ繋がることは出来ないけれど、きっと繋がることは出来る。

君のために頑張るよ。


例え、僕が君を殺すことになっても。



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12月3日。
正チャンはっぴーばすでー!!!!

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