小説:獄寺祭

□いつか、光さす場所へ act.1
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「ねぇ、山本」
「どした?ツナ」
「獄寺君…なんか、おかしくない?」
「あいつがおもしれーのはいつもの事じゃねーの?」
「山本…そーじゃなくて…」

頼りがいはあっても天然な親友の答えに、沢田綱吉ははがっくりと肩を落とした。


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いつか、光さす場所へ 1.
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昼休み。いつもの通り、沢田綱吉と山本武は屋上で獄寺隼人を待っていた。弁当片手に。
銀髪の帰国子女は一人暮らしのため、大抵購買部にパンを買いに行く。
学校生活において、基本的に獄寺は、綱吉の傍に張り付いている。そのため、綱吉が学校で獄寺以外と二人になろうと思うと、この時間以外ではちょっと難しい。
断じて獄寺を仲間外れにしたいわけではないが、たまに困る。例えば今のような時。獄寺隼人その人を案件に出したい時。
そんなわけで、彼抜きで話のできるこの時間は貴重といえた。

「…?なんか、気になってんのか?」

きょとんと問い返す山本。

「かえって、ツナの方がおかしいのな」

綱吉は言葉に詰まった。隠していたつもりだったが、やはり不自然だったらしい。
曖昧な笑いを浮かべながら、綱吉は屋上の扉が確認できる角度に体をずらした。
今日は授業が終わるのが少し遅かったので、パンの購入にはいつもよりてこずるかもしれない。獄寺が戻ってくるまで、まだ少し時間があるはずだ。
一つ頷くと、綱吉は目下気になっている事を持ちかけた。

「昨日さ、ハルがうちに来たんだ」
「うん」
「うちに来る前に、獄寺君と会ったっていうんだけど、何か雰囲気がいつもと違ってたって」

脳裏に、ハルの様子を思い浮かべる。いつも明るい彼女が、少し萎れていた。

『獄寺さん、なんだかしょんぼりしていたって言うか…寂しそうな感じでした…。ハルはてっきり獄寺さんもツナさんちに来るもんだと思ってたんですけど…。ツナさん、なにか、あったんですか?』

ハルは突拍子もない行動も多いが、優しい女の子だ。
顔を合わせれば喧嘩ばかりの獄寺が相手でも、気にかかるのだろう。

『ツナさん。ツナさんに会えば、きっと獄寺さんも元気になります!だから…励ましてあげてください』

ハルと獄寺の間に、どんな会話があったのか、綱吉には分からない。
しかし、いつも明るいハルのしょんぼりした表情に、獄寺がどんな顔をしていたのか、想像がつくような気がしたのだ。
本人達に言ったら嫌な顔をされるかもしれないが、この二人は結構似ていると綱吉は思っていた。

「じゃあ、ツナは獄寺に会ってないのか?」
「うん…うちには来なかったんだよ。獄寺くん。ハルを送っていく時にも、もしかしたら会うかな?とか思ってたんだけど、会えなかった」

そして今朝。いつも通りに家まで迎えに来た獄寺は、いつも通りの輝くような笑顔で挨拶をしてくれた。

「…今日見る限りでは、特に気付かないけどなぁ…」
「うん、オレも。けど…何がどうって訳じゃ…ないんだけど……」

綱吉の脳裏に、ハルの寂しそうな顔と、獄寺の全開の笑顔がちらついては、二人の表情が逆転する。見ていない筈の、獄寺の沈んだ表情。
違和感と説明する事が難しい違和感。

「なぁ、保険医のおっさんに訊いてみたらどうだ?」

口ごもる綱吉に、首をかしげながら山本が提案する。
綱吉はバツの悪い顔をした。

「…朝、一番に行ったんだ。実は」
「あ、小僧に呼ばれたって言ってたのは…」
「ゴメン、だまして」
「気にすんなよ。で、どうだったんだ?」
「…何も。なんかリボーンもいたんだけど、自分で考えろって」

そう。学校に到着してすぐ。小さな家庭教師に、一人で来るように言われている、と。つまらない嘘までついて友達二人を足止めしたのに、収穫と言える収穫はなかったのだ。

→2.
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