小説:獄寺祭

□いつか、光さす場所へ act.2
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いつか、光さす場所へ 6.


時間は少し遡る。

一生を捧げる主と決めた綱吉と、山本の二人が待つ屋上へと急ぐ獄寺隼人は、不機嫌だった。
そもそも授業が昼休みに少々食い込んだことが気に入らず、そのせいでお気に入りのパンの購入に出遅れたことも気に入らない。
仕方無しに購入した、菓子パンも気に入らなければ、ため息をついた獄寺めがけてパンの交換を申し出ようと、数人の女子生徒が声をかけてきたことも気に入らなかった。
それが好意から来るものだと分かってはいても、獄寺はそれを受け入れる事を良しとしない。受け入れることができない。

自分に気安く関わろうとする人間が、気に入らない。
拒否してばかりの自分も気に入らない。
なにより今この瞬間、自分が主の傍にいない事が気に入らない。

明日からは昼食を買ってから綱吉を迎えに行こうか。そんなことを考えながら、獄寺は足を進める。
一刻も早く、主の元に戻りたかった。
綱吉の柔らかな笑顔だけが、ささくれた心を静めてくれる。
この不機嫌の原因が、胸に巣くう不安であることは獄寺自身が良く分かっていた。


ほんの数日前、獄寺の敬愛する主がヴァリアーを退け、正式にボンゴレファミリー10代目後継者と認められた。
昨今、裏表の別なくあっという間に情報は巡る。
戦いの翌日にはボンゴレ10代目、沢田綱吉及びその守護者の名前が、裏の社会に曝された。
全員が、裏の世界の人間として、広く知れ渡ったのだ。

獄寺がそれを理解したのは、祝勝パーティーの後だ。
帰宅途中に、ボンゴレ後継者の嵐の守護者に用がある、と声をかけられた。物騒な雰囲気の男だった。
ボンゴレファミリーは巨大な組織だ。それだけに様々な思惑が交錯している。
獄寺を抱き込む気だったのか、足元をすくう気だったのか、それとも命を狙ったものか。確認することなく、獄寺は相手を畳んだ。
すぐに、他の守護者達にも接触を図るものがいるだろう事に思い至ったからだ。浮かれた気分は、あっという間に鳴りを潜めた。
獄寺は急ぎ主の元へ走った。

案の定、沢田家の周りをうろついている人間が、複数見つかった。
しかし最強のヒットマンの壁を突破できる筈もなく、彼らは悉く撃退されることとなった。
現時点では、自分の生徒を政治的な駆け引きに放り込むつもりはないらしい。
リボーンはビアンキのバックアップも得て、勘の良い綱吉にすら気付かせる事なく事態をおさめていた。

リボーンの存在に大きな安堵と感嘆、ほんの少しの嫉妬を覚えながら、獄寺が次に気になったのは、山本武と笹川了平だった。
未熟とはいえランボは獄寺と同じく、もともとマフィアだ。それほど心配はしていない。雲雀恭弥もこちら側の人間に近い。
クローム髑髏が若干気にかかったが、城島犬、柿本千種の二人がついている上に、いざとなれば六道骸の登場だ。心配されるべきは、接触を図る人間の方だろう。
しかし山本と了平は、一般人である。彼らはマフィアのなんたるかも知らされずに参戦し、何も知らないまま裏の世界に知られてしまった。

気付けば、綱吉は悲しむ。

それは予想ですらない。
獄寺は彼らを守るべく、ひいては綱吉を守るべく、人知れず動く事を己に課した。


翌日から、獄寺は行動を開始した。
朝、護衛も兼ねて綱吉を迎えに行き、途中で山本と合流する。
怪我が治れば山本は野球部の朝練に出るようになるだろうが、それまでは三人での登下校だ。
学校に着けば、雲雀恭弥という哨戒兵器がいる。能動的な行動までは期待できないが、シャマルもいる。
なにより、リボーンが学校中にアジトを張り巡らせている。気を抜くつもりはないが、安全度は高い場所と言えた。
学校が終われば、綱吉を家まで送り届け、一度笹川家まで足を伸ばして異常がないことを確認する。
その後、竹寿司の開店に合わせてその付近に身をおき、山本の父が暖簾をしまうのを確認してから、沢田家を経由して自室へ戻る。
それが獄寺の一日の流れとなった。
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