小説:ランダム短編→2
□Minimum つなよし
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ミニマムつなよし〜お正月〜
「今日はひのき風呂だよ」
にっこりと微笑む巨大な雲雀を見上げ、綱吉は小さく小さい頭を傾けた。
体育のマットのように感じる皿の上に、伊達巻きやら栗きんとんやら巨大小女子やら並ぶ。
両手で黒豆を掴んでココヤシみたいに噛り付いていたら、目の前にコトリと木箱が置かれた。
立ち上がって見ると、升酒の升だ。
側面には並盛神社の焼き印がある。
「年始で祝い酒を振る舞ってるんだけど、ちょうどいいからさ」
ほら、と首根っこを掴まれ入れられると、やや狭いものの座ればお風呂と同じくらいの深さだ。
「本当ですね!!ひのきで出来てるんですか?」
「そう。安い木だけどね、香りが少しするでしょう?」
確かにほのかに木の香りはするが、綱吉にはひのきかどうかすぐにはわからなかった。
そこでしゃがんで鼻を近づけ、思いっきり嗅いだ。
「うえぇ!? ごほごほ…っ!!」
「ど、どうしたの綱吉!?」
盛大にむせた綱吉は、涙を流しながら、升の縁から身を乗り出して外に出ようとする。
雲雀は転げ落ちそうな綱吉をつまむと、自身の目の前まで吊し上げた。
「いったいどうしたの?」
毒になるようなものは入ってないし、綱吉がひのきアレルギーだとか聞いていない。
「……あ」
けほけほと、咳で顔を真っ赤にした綱吉を見て、思い当たる。
この升は、雲雀がさっきまで御神酒を飲んでいた升だ。
「……酔ったの?」
そっと手の平に下ろして両手で包むようにすると、ようやく息を整えた綱吉の顔がまだ真っ赤だとわかる。
酒飲みのいない健全な家庭に育った綱吉だ(※雲雀は家光を父親と認識していない)。酒など初めてだったんだろう。
「ごめんね?」
「いえ…。平気です」
よく見ると、涙目で赤い顔で熱い体を持て余して身をよじってるのが、わかった。
わかってから後悔した。
見なければ良かったのに。
顔を背けた雲雀に、綱吉が「雲雀さん?」と心配そうな声をかけてくる。
手の平でもそもそ様子を伺うように動くのがわかった。
お風呂に入ってるとこでも見ちゃおうかなんて考えてたくせに、脱がしもしないで堪らなくなってしまった。
「……はやく」
「はい?」
「早く、呪い解いてよ」
「……はい」
小さくなっちゃったせいで、自分ちに居られない綱吉とずっと一緒に居られるけど、こんなに近くにいられるけど、
やっぱり堪らないなって切なくなる。
机に突っ伏した雲雀の頬に、綱吉はぺたりと体を寄せた。
ありえないほど近くて、なのに何も出来ない。
「毎日会えなくても、やっぱりちゃんと触れる綱吉がいいな」
「……ごめんなさい」
「綱吉が謝ることじゃないでしょ」
謝るなって言って、指先で力を入れないようにして綱吉の背中をなぞる。
全然、楽しくない。
「……雲雀さん、お風呂入りましょ」
「お湯を持ってこさせるね」
「じゃなくて」
今度は酒のせいじゃなくて赤くなった綱吉が、耳元で小さな声で囁いた。
「マスだったら、お湯に浮かぶから、一緒にお風呂に入れるかなって…」
びっくりして返事をしそびれたら綱吉が逃げ出した。
でも、腕を軽く伸ばしただけで捕まえられた。
「……うん」
簡単に手の平に納めてしまえて、こんなこと言って貰えるなら、
小さい綱吉も悪くないね。
ご機嫌になった雲雀に、綱吉はうれしそうに笑った。
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弟1が、升を玄関の鍵入れにしてるっていうからさ。
毎年、唯一の酒飲みな私が升を買い、弟1に払い下げられます。
ウサギの焼き印の時は自分で欲しかったが、飾る場所もないし、渡しましたさ。
今年は七年大祭と朱い印字でした。