小説:ランダム短編→2
□ヴァルプルギスナハト
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実はファンタジーを信じる純粋な心を持つ、やり手古参ファミリーのこのボスに礼を尽くさねば。
「失礼しました。…霧の属性の術者は、幻覚であたかもそこにいるように見せ掛けられるのはご存知ですね?」
「はい、もちろんです」
やや憮然としながらも素直をうなずく。俺はニッコリ笑うと欲しがってた言葉を与える。
「ここに居ながらにして、彼らはブロッケン山でも魔女の集会に参加していますよ。いつも、イタリアに居ながら参加しているように」
「「「は?」」」
綺麗にハモったなぁ。ドンにバレたらどうすんだよ。気付く余裕ないみたいだけどさ。
こんな嘘八百。こういうのは、ランボでよくやったから、おてのものだ。
「ボンゴレの霧の守護者ともあろう者が、魔女の集会くらい参加しないわけがない」だなんて、なんて綺麗なファンタジーだろう!!
「クロームもマーモンも、こっちでも楽しんでくれよ?魔女と下界で戯れるなんて、ヴァルプルギスナハトでは最高の贅沢でしょう」
「……ああ、さすが天下のボンゴレ」
感動されちゃった。
そのスキに、彼が理解しない日本語で軽く説明すると、ふたりは真っ赤になって照れた。
実際、ブロッケン山を気にしてたから、喜んでくれたみたいだ。
「夜が明けたら、メーデーだよ。春の始まりのお祭りだ」
「もう、春は始まっているよ?」
「……ボスの近くは、いつでも春なの」
長い暗闇から抜け出して、太陽が長く空にとどまり始める季節。
短い夏への期待と長い冬を乗り越えた喜びと。その真ん中の季節の変わり目を、一緒になって祝おう。
「暗闇があるから、光の暖かさがわかるんですよ」
こっちはマジであそこの山でブイブイ言ってそうな男の声が、少女の口からした。
ドン・カルカッサに苦笑してごまかし、グラスを合わせる。
「さ、おまえもビールを飲みなよ。春だろうがなんだろうが、皆で集まれるのがめでたいんだし、それが春なら最高だ」
春ですね、とクロームが指を鳴らして花を降らす。
マーモンがムッとし顔で地面に花を撒く。
「さ、俺の魔女たち。ここでの酒宴は始まったばかりだよ!!」
近くにいた人にビールを振る舞い、新しい冷えたビールを煽って夜明けを迎える。
5月1日に二日酔いにならなくちゃいけないからね。
終わり。