小説:獄寺祭
□いつか、光さす場所へ act.1
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3.
「ふーん…そっか」
山本は、小さくため息をつく親友をそっと窺った。
少し伏せられた目元に、睫毛の影が落ちている。憂いを帯びて、酷く大人びた表情が子供子供した痩躯とアンバランスで、一瞬呼吸が止まる。焦燥に似た感覚。
「山本。オレ、山本が好きだ。大事だよ」
「…!」
その言葉に、心臓を殴られたような衝撃を受けた。
だが、言ったほうの綱吉は、動きを止めた山本を不思議そうに見ていた。こともなげに。
いつの間にか先ほどの表情も、綺麗に払拭されている。いつも通りの、親友の顔。
山本の体から、こわばりが解けた。
「オレも。ツナの事大好きだぜ」
そう告げれば、綱吉はありがとうと微笑えんだ。
柔らかな表情。しかし、まっすぐな瞳が、いつもより透明度を増しているようで、目を引かれる。山本はどこかもどかしい思いで、綱吉を見つめた。
「それでね、獄寺君の事も好きだ。大事」
「ん。オレも」
「けど、獄寺君は…俺の言う好きを、知らない気がする」
「……ツナ?」
瞬きの間に、綱吉は先ほどの表情に戻っていた。山本を見つめたまま。
山本は目を逸らす事ができなかった。
「多分、それがオレの感じてる、違和感じゃないかって、思う。…知らないものを受け取るのは、難しいよね。どうしたら、届くんだろう。受け取ってもらえるんだろう」
無力感。焦燥。戸惑い。躊躇。寂しさ。
そんなものが綯い交ぜになった、どこか切ない声に、綱吉自身が驚いた。のろのろと口元を押さえながら、呆然と山本を見上げる。
視線の先で、山本も驚きをその目に映していた。
「……ツナ、獄寺はお前の事、すげー好きだよ。これ以上ないってくらい、大事にしてる」
山本が、真剣に言い聞かせるかのように言った。
綱吉もうん、と一つ頷く。
「それは分かってるんだ。けど…例えば、オレの好きと山本の好きは多分似てるよね」
「かもな」
「獄寺君の好きは、オレたちの好きとは、あんまり似てない。…山本には、まだ対等なのかな?でも、オレには対等じゃないよね」
「……」
山本は言葉を返せなかった。
それは違う、と思いながらも、返す言葉が見つからなかったからだ。
「オレ、獄寺君の事、友達だと思ってる。獄寺君は、オレを友達って思ったこと、あるのかな…」
「…マフィアごっこの事か?」
「……」
今度は綱吉が言葉を失った。
指輪を巡る、命を懸けた戦いに巻き込んだ今になっても、綱吉自身がマフィアというものを受け入れきれていない。
『答えを出すのはお前だ』
脳裏で、リボーンの言葉がリフレインする。
今ここに至って、考えなくてはいけないのは獄寺に関してだけではないことに気づいて眩暈がした。
山本に対しても。なにより、綱吉自身について、もっと本気で考えなくてはならないことを、今まさに自覚した。本当の意味で。
綱吉は、全身の血が下がる思いだった。
一方、顔色を失った親友を前に、山本も動揺していた。
自分らしくもなく、慎重に言葉を選んだつもりが、蓋を開けたら大失敗だったからだ。
獄寺。あと5分は来ないでくれ。
今の綱吉の顔色を見たら、獄寺は何も聞かずに自分を殴るだろう。山本には確信があった。
→4.