小説:獄寺祭

□いつか、光さす場所へ act.3
2ページ/4ページ

10.


「獄寺君、良かったら半分こしない?」

綱吉が、どこかつまらなそうにパンの包装を破る獄寺に提案する。
驚いた顔で、獄寺が振り返った。

「全部甘いパンだと辛いだろ?オレの弁当と半分こしよう。…君が、嫌じゃなければ」
「そんな!せっかくお母さまが作ってくださった弁当を、こんな菓子パンと交換するだなんて…」
「お、いいな、それ。どうせなら3人で分けようぜ」

とんでもない、と辞退しようとする獄寺を遮って、山本が乗り気になった。

「ツナのおばさん、料理上手いもんなー」
「山本の弁当もいつも美味しそうだよね。さすがプロって感じ」
「おー。親父喜ぶぜ」
「待ちやがれ…本当にてめーは図々しいな」
「いいだろ。みんなで食べたほうが楽しいし、たまに獄寺君や山本がうちでご飯食べてくの、母さんも喜んでるよ。良く食べてくれるって」

そういえばビアンキもあんなに細いのに結構食べるんだよね、と綱吉が笑いながらさっさと弁当のフタにおかずを取り分ける。
山本が同じようにおかずを取り分けながら、ふと気がつく。

「獄寺の箸がねぇな…」
「ほんとだ。獄寺君、オレと一緒でいい?」
「…はっ?」

一瞬何を言われたか分からずに、主に対して間の抜けた返事をしてしまった。

「あ、そういうの、気にしちゃう?じゃあ獄寺君これ使って」

ぽかんとしている獄寺に、綱吉が箸を握らせてくる。

「ちょ…10代目!じゃあ、10代目はどうやって食べるんですか!」
「山本、一緒に使わせて?」
「ん?いいぜ」

なんでもないことのようにお願いする綱吉と、快諾して箸を丁度真ん中に置こうとする山本。
山本は、運動部らしく回し飲みやそれに準じる行為に抵抗は薄い。最近は気にする者も増えたようだが、さっきも自分が口をつけたゼリー飲料を綱吉の口に突っ込んできたくらいだ。気にするタイプではない。
そして綱吉も、居候と言う家族が増えてから、大分気にならなくなっていた。ランボの箸使いがあまりにも目に余るとき、食べさせてやったりするからだ。
今ではわざわざ箸を変えるのが面倒で、自分の箸でランボの口に運んでやるようにまでなった。着実に子守スキルが上がっていると、綱吉はちょっと自信を持ち始めている。口に出すつもりはないが。
対して獄寺は、それほど潔癖なつもりはないが、城にいた頃は誰かと食器を共有するなどありえなかったし、ストリート時代にもそれほど気を許せる相手などいなかった。
抵抗があるというよりは、したことがなくて戸惑っている、というほうが正解だ。
とりあえず獄寺は綱吉と山本が箸を共有し、自分は1人で箸を使い昼飯を食べる絵を想像してみた。
なんだかそれはすごく嫌だった。
そもそも潔癖だったところで、相手が綱吉ならば獄寺が気にするはずがない。

「そんなっ10代目、気になんてなりません!よろしければご一緒させて下さい!」

獄寺は慌てて箸を綱吉の手に返した。
そもそも箸を持っているのは綱吉と山本なのに、貸してもらう獄寺が一膳使って、残りを綱吉と山本で共有するなんておかしい。
部下にあるまじきことだ。
それに仲間はずれみたいだ。寂しい。

「ん?」

寂しい?

「獄寺ー。オレのも真ん中に置くから、自由に使っていいぜ…ってどうかしたか?」
「いや…なんでもねぇ…」

獄寺は自分に驚いていた。
山本に応じる声すらぼんやりと、綱吉を見つめる。
綺麗な箸使いでから揚げを口に運んでいた綱吉が、獄寺の視線に気付き、ちょっと照れくさそうに笑った後、はい、と箸を差し出した。
そうっと箸を受け取りながら、向けられた笑顔の柔らかさとか、触れた指先の暖かさにじんわりと胸が暖かくなる。獄寺はつられたように含羞んだ。
少しだけ頬を染めながら、緊張した手つきで箸を受け取る獄寺を眺めながら、山本は呆気にとられていた。
なんて嬉しそうな顔してやがんだ。
これ以上ないほどストレートに好意を溢れさせている。獄寺の背後にお花畑が見えそうだった。
なんというか、初めての遠足で、大好きな友達と初めてのお弁当交換?
目の前でほのぼのと笑い合う2人が小さな子供のように見えて、山本は頭を振った。ちょっと眩暈がする。
こいつら可愛いなぁ、などという感想を素直に言ったら、2人とも怒る事は容易に想像が出来た。

→11.
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ