短編小説
□私、結婚してました。
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ピンポーン
朝、呼び鈴を鳴らしても誰も出てこなかった。
朝早くから仕事に行かないと行けない日もあると手紙に書いてあったことを思い出し、今日がその日だったのかもしれないと思う。
彼女の都合も考えず、思いつきでここまで来てしまった。
「今日しか時間が取れないのに……」
また、暫くは休みが取れないだろう。
落胆して僕は彼女の家の前を立ち去った。
メモだけ残して。
゛また、来ます。゛
待たせていたタクシーに乗り込み
一息つく。
緊張の糸が少し切れた。
まだ直接、逢ったことはないから。
デビュー当時の僕のことや、僕のことを応援してくれてること。
結婚感のことで彼氏に振られて僕と同じ考えを持っていると熱く語ってくれていた。
初めて、共感の手紙をもらって嬉しくて舞い上がりそうになった。
それですぐに探偵を雇って彼女のことを調べてもらった。
写真も手元にある。
自分でもストーカー的なことをしてしまったとわかっているけど、とめられなかった。
この人を逃したらもう、結婚できないのでは無いかと思った。
大げさだと思うし、他にも同じ考えの人がいるかもしれない。
探偵から見せられた写真で一目惚れしたというのもある。
職場に行ってみよう。
邪魔にならないようにそっと。
タクシーの運転手に行き先を告げた。