Vita/minX

□彼女は今日から男の子?
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困ったことになった

「・・・なんだ貴様。誰の許可を得てここにいる」

私を見下ろす翼はいつもとは違いかなり敵意剥き出しだ。それもそのはず、私は今男だ

『そんなに睨むことないだろ?』
「Shut up!!ゴタゴタはいい!早くここから出ろ」
『御託な』
「なっ!うるさい!」

キッと睨まれた。ちょっとした興味で男になってみたが、翼に冷たくされるのは面白いが少し切ない。ていうか気付けよと理不尽な怒りも湧いてしまう

『お前何そわそわしてんの?』
「貴様には関係ない。早く帰れ」
『やだよ』
「Shit!」
『汚ねぇ言葉使うなって』
「お前に言われる押し合いはない」
『筋合いな。お前もう少し現国頑張ろうぜ』

これは補習の課題を増やさなければ。何度も時計をチラチラ見る翼はやはり落ち着きが無く、何かを待っているよう。なにか予定でもあったのか。でも今日はモデルのバイトも無いし、会食の話も聞いていない

「遅い・・・」

扉を見つめて呟くのが聞こえた。あぁ、もしかして

『彼女でも待ってんのか?』
「ううううるさいぞ!!」

なんて隠し事の出来ない子。素直過ぎるのも考えものだ。この時間は私が学園内の整備を終えてバカサイユに翼を迎えに来る頃。特に時間を決めている訳でも、約束をしているわけでもないが、必ず彼は私が迎えに来るとドアの前で待っている。主人の帰りを待つ犬みたいだと言ったらこの前顔を赤くして怒られた

『彼女ってどんな奴?』
「何故貴様に話さなければならん」
『お前みたいなパーフェクトな男の彼女ってどんな奴か気になってさ』
「なかなか見る目があるな!いいだろう!教えてやる」

彼は素直と書いて単純と読むんですね。吉仲、あんたの息子は凄く素直に育っているよ

「俺の恋人は全てにおいて素晴らしいのだ」
『ほぉ』
「美人で頭も良い。何より俺を愛してくれている」
『っ!』
「なんだ」
『や、なんでも』

危ない、思わず顔に熱が集まった。きっと赤くなっているだろう。随分長いこと翼といるがこんな顔は初めて見た。思いを巡らすように目を細め、微笑む顔は単純に綺麗だと思う

「しかし遅いな。なにかあったのか」
『あーまだ暫くは来ないと思うぜ』

“俺”ここにいる限り“私”は来られない。そういう意味で言ったのだが、翼はギロリとこちらを向く。なんだ?

「何故貴様がそんなことを知っている」
『は?』
「暫くは来ないと言っただろう、輝に何かしたのか」

なんて思考回路だ真壁翼。私は唖然としながら近付いてくる翼を見ていた。ぐいっと襟元を掴まれ、ソファに座っていた私は立ち上がる。いつもより背を高くしているから顔が近い

「・・・何故輝の匂いがする」
『に、匂い?』
「とぼけるな!何故貴様から輝の匂いがする!」

頭に血が上っているようで目の前の相手、つまり私を殺さんばかりに睨みつける。イケメンが怒ると怖いって本当らしいな。翼は私の首元に近づくと思い切り息を吸い込んだ

「What?何故だ、あいつの匂いしかしないぞ」
『あー、まぁそりゃそうでしょ。私から私以外の匂いなんてしないと思うし。ていうか私の匂いって何よ』

顔を上げた翼は混乱したような顔で私を見た。襟元を掴む手から力が抜けたのを確認し、私は元の女に戻る。髪は伸び、背は縮み、声も高くなると、翼は目を白黒させた

「な、あ、ど、どういうことだ?!」
『ちょっとした興味で。あー苦しかった』
「す、すまない!」

慌てて私の首を確認する。赤くはなっていないようだが、少々ショックだったようだ。しかし私はそれ以上に驚いている

『翼って私の事考えるときあんな顔になるんだね』
「どういう顔をしていた?」
『私のことを愛してるーって顔』

ニヤニヤと見上げるとみるみるうちに顔を赤く染め、片手で顔を隠してしまう。あぁ、勿体無い

『あと私ってそんなに匂いする?』
「する」
『どんな?』
「こんなだ」

翼は顔を赤くしたまま私を抱き締め、自分の首元を晒した。優しくて安心する、翼の匂い。なんとなくわかった気がする。背中に手を回し抱き締め返してやるとますます力が強くなっていく。強く、ちょっとまて

『く、苦しいんだけど』
「俺に心配をかけた罰だ!まだ離さんぞ!!」
『折れる折れる折れる!』

ミシミシと聞こえる背骨に私は誓った


彼女は今日から男の子?

(もう絶対翼の前で男にならない・・・)(当然だ!男ではKissし辛いだろう!)(しないって選択肢はないんだね)




お題
確かに恋だった

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