籠球

□鍋の日
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明日は久々の部活休み。秀徳高校男子バスケットボール部に所属する彼がうちに来た。聞けばチャリヤカーでエース様を送ってきたそうだ。汗だくでやって来た彼を風呂場に押し込み、引き出しから彼のスウェットを取り出すと脱衣所にそれを置く。脱いだジャージとTシャツを洗濯機に入れ、バスタオルを置くとシャワーが止まる音が聞こえ、慌てて脱衣所から出る。いてもいいのにーと間延びした声を後ろに聞きながら夕飯の続きを作り始めた。彼の着替えの準備等をしている間にも鍋は音を立て、あとは米が炊けるのを待つだけ。今日は久しぶりに窯で炊いているので蒸らし中だ。恐らく肉が足りないと言い出すので、追加もちゃんと用意してある。鍋をテーブルに移動させていると彼が風呂場から出てきた


「お!今日はキムチ鍋!?」
『水垂れてるよ』


嬉しそうに駆け寄ってきた彼の頭を肩にかかっていたタオルで拭く。ありがとうと拭きやすいように腰を屈めて来る。これが好きであまり拭かずに来るのだが私も満更ではない。水気を飛ばそうと思えばできるのだが敢えてしないのはお互いにこの時間が好きだからだ。大方拭けたところでお互いテーブルの前に座ると、彼はちょっとこちらにずれた。顔を見ればニッと笑い箸を持つ。小皿に白菜や豆腐、豚肉を盛ると彼に手渡し、自分の分も用意した


「『いただきます』」


ものすごい勢いで食べる彼とマイペースで食べる私。小皿の中は直ぐに無くなり、彼は鍋に皿を近づける。私は箸を動かしお玉に向けるとお玉が小皿にえのきや豚肉ねぎを山のように積む。もう慣れたもので積み終わるとすぐにまた食べ始めた


「やっぱ 輝ちゃんのご飯美味いよ!」
『ありがと。ほら、ゆっくり食べな』


徐々に無くなっていく具材、特に肉。私は肉よりキノコの方が好きだがやはり年頃の男の子。食べる早さが尋常じゃない。鍋に肉を投入する私の横で煮えるのを待つ彼は“待て”状態の犬のようでなんだか可愛そうだ


『和成、口開けな』
「んあ?」
『はい、あーん』
「あー」


私の皿にあった豚肉を食べさせてやると嬉しそうに擦り寄ってくる。よしよしと頭を撫でてやると更に幸せそうな表情を見せた。どうやら随分年下な彼が可愛くてしょうがないらしい
食事を終え、食器を下げようと立ち上がると彼がさっと皿を持った。見上げるとこれまた明るい笑顔で俺がやると歩いて行ってしまった。せっせと鍋を持っていく彼を見ると洗い物もしてくれるようで、水を流し始める


「風呂入ってきていいぜ、全部やっとくから」
『手伝おうか?』
「いいからいいから」


ありがとうとお言葉に甘えて風呂場に向かった。彼はよく洗い物をしてくれる。よく家で手伝いをしているのか洗い終わった皿はいつもピカピカで、褒めるとまた嬉しそうに笑う。風呂から上がり脱衣所を出るとソファに座る彼がテレビを見ていた。バスケの特集を見ているようでその眼は真剣そのもの。邪魔しないようにそっと台所へ向かいお湯を沸かす。昨日いただいたお茶を煎れ、湯呑をお盆に乗せて再びリビングへ戻ると、慌てたようにこちらへ来た


「気づかなくてごめん!」
『大丈夫、お茶でいい?』
「ありがと」


二人でソファに並んで座り、お茶を飲む。何だか老後の生活のようで笑えたが、このゆっくりした時間が好きだ。一息ついた彼がテーブルに湯呑を置き、深く座り直す


「 輝、おいで」


私の裾を掴みながら自分の脚の間をポンポン叩く。湯呑を彼の物の隣に置き、腰を上げて彼の脚の間に移動する。前向きにそのまま座ると今まで以上に嬉しそうに私を後ろから抱きしめた。べたなカップルのようで最初は恥ずかしかったが、彼はこうするのが好きらしく何度もするうちに慣れてしまった。体重を後ろに預け、彼は私の頬に顔を寄せぐりぐりと擦り寄る。少し冷たい彼の頬が気持ちいい


「明日どこ行きたい?動物園?遊園地?映画もいいな」
『和成といっしょならどこでも』
「嬉しいことサラッというよなぁ。もー俺調子に乗っちゃうぜ?」


軽く頬に口付ける彼の頭を撫でてやれば私の手を掴んでそのまま手のひらにもキスをした。おいで、何てかっこつけてはいたが、今日も彼は甘えたいらしい



『いい子いい子』
「子ども扱いすんなよー」
『私から見たら人間はみんな子どもでしょ』
「夜は 輝の方が甘えたなのに」
『高尾くん今日はソファで寝る?』
「ごめんなさい!一緒がいいです!!苗字呼びやめて!!!」


慌てたようにきつく私を抱きしめる彼につい意地悪言ってしまう私。今はまだ私の方が優位に立たせてほしい
数年後にはきっとあなたに敵わなくなるから






 

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