黒子のバスケ after story
□やっと君を手に入れた
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「征ちゃ〜ん。こっちよ、こっち。」
ウインターカップが終わり、宿泊しているホテルで各々休憩をとっている。
ロビーの談話室のソファで休んでいた実渕に声をかけられた。
『皆、ここにいたのか。黛さんは?』
「あの人は仲良しこよしで集まる人じゃないじゃん(笑)部屋で休むってさ。」
『ふふっ。確かにそうだな。』
俺は葉山と実渕の間に腰をおろした。
向かい側では根武谷が出前で頼んだ牛丼を勢いよく食べていた。
「初めて負けちゃったわねぇ・・・。」
『あぁ。形容しがたい胸の痛みだ。食事をして入浴して疲れをとっても拭えないな。』
この痛みは、あの時の痛みに似ている。
虹村キャプテンと綾が付き合い始めた時。
胸に押し殺したあの痛みと。
『だが、俺の初めての敗北が黒子・・・いや誠凛でよかったと思っているんだ。逆に少しだけ清々しい気持ちでもいる。』
「征ちゃん・・・。」
「ん、おい。あれってよ。誠凛のマネージャーじゃねーか?」
根武谷の視線の先に目をやると、そこには綾がいた。
キョロキョロと何かを探しているようだ。
「このホテルに誠凛はいないわよね・・・?」
「もしかして赤司を探してんじゃね?」
まさか・・・
「お〜〜い!!誠凛のマネージャーちゃーーん!!!」
葉山がブンブンと手を振って大声で叫んだ。
この場にいるのが少しだけバツが悪い気がする。
何故なら俺たちは綾にとっては今日、負けた敗北者である事には変わりないのだから。
だが綾は小走りで駆け寄ってきた。
『あの!あたし・・・!』
「なぁ〜にぃ?負かした相手に塩塗りに来たのかしら?」
『実渕、あまり綾を苛めるな。どうした?誠凛の宿泊先はここじゃないのだろう?』
『そうなんだけど・・・いてもたってもいられなくて・・・!征十郎に会いたくて・・・!』
『俺に?』
「んーとりあえず綾ちゃんだっけ?赤司の横、座ったら?」
葉山に言われ、ちょこんと綾が俺の隣に座った。
『あの・・・ね。うまく言えないんだけど・・・。』
俺たちは綾の言葉をゆっくり待つことにした。
『あたし、本当、嬉しかったの!その・・・うちとの試合の時の最後の征十郎が・・・あたしが大好きだった征十郎のプレーそのものだったから・・・。』
『綾・・・』
『全中3連覇の後、あたし辞めちゃったじゃない?ずっと引きずってたの。征十郎はあたしを救ってくれたのに、あたしは変わるチームを・・・貴方を救えなかった。』
違う。君のせいではない。
あれは俺の弱さだったのだ。
でも、俺は黙って綾の言葉の続きを待った。
『でも、今日見たプレーが本当に嬉しくて・・・伝えたくて・・・』
『・・・ありがとう。俺も君たちと・・・誠凛と戦えてよかったと思っているよ。次は負けない。また、やろう。』
綾はボロボロと涙を流したまま、頷いた。
俺は優しく頭を撫でた。
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