へるぷみー
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「ごめんね、待たせちゃって」
「あ、いいえ…」
ぱぱっと制服に着替えた彼は、エナメルバッグを背負った。
既に帰る気マンマンで、靴を履き始めている。
「あの、私なんで呼ば…」
「駅からの電車でしょ?君の降りるところまで一緒にいようよ」
トントン、とかかとを鳴らすと名前の手を引っ張って、もうすぐ下校時間だから早く、と急かした。
もう空は真っ暗で、少し星が輝いていた。
「 あれから、女性専用車両に乗り始めたんだね。」
「えっ…ああ、そうです。もうあんなこと、されたくないので…」
しばらく無言が続き、何故か居心地が悪くはならなかった。
むしろ、心地よい。
「アドレス、教えてくれないかな?LINEでもいいけど」
「!?あ、どうぞ!」
すっとスマホを出され、慌てて名前もスマホを出す。
赤外線で通信すると、満足したように及川はポケットにしまった。
「もう会えないかと思っててサ。会えて嬉しいよ!」
「あの、あのときはありがとうございました!でも私、お礼も言っていなくて…」
「いいよいいよ、君が無事ならさ!」
にこっと微笑むと、ドキンと胸がなった。
ああ、このひとのこと好きなんだなって。
「名前ちゃんは好きな人とかいるの?」
「い、います!」
突然の質問に驚きつつも肯定する。
まぁ、その好きな人はあなただけど…なんて心の中でつぶやく。
「へえ。それって………」
「名前!!」
二人の会話を遮ったのは、自転車を止めて走ってきた影山だった。
「とっ飛雄!!?」
「お前!迎えに行ったの…」
「やあ、飛雄ちゃん?」
食って掛かる影山に微笑みかけたのは、及川だった。
それを見て目を見開いた影山は、思わず後ずさる。
「及川、さん…」
「ひっさしぶりー!」
人懐っこい笑顔でいうと、さらに影山は顔を険しくした。
「こいつに何の用なんですか…!」
「やだなぁー、ちょーっとお話してただけだよ?」
だけど影山は名前を自分の背に隠し、敵意を丸出しにする。
「飛雄!及川さんは昨日電車で痴漢から助けてくれたのだから!」
「あぁ!?だから何だよ!」
「そ、そのお礼をしてるだけ!」
そう言うと影山はピタリとおとなしくなり、名前と及川を交互に見る。
「………遅くなる前に帰れよ」
「!と、飛雄!!」
そういうと、影山は自転車にまたがって走り去った。