□堕ちる紅
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――紅が蒼空を駆ける。
――真白な翼で懸命に。



雪のしんしんと降り続ける夜。
孫呉の内部は来るべき朝を待ち、静まり返っていた。

そんな中、ひとつの部屋から灯籠の灯りが漏れ出ているところがあった。
他国に進攻せんとする為の軍略を日々欠かさず練り、時に戦場では迅速且つ聡明な判断を下さなければならぬ、多忙な軍師。

――名は陸伯言という。嘗て名門家としてその名を馳せた陸家の長男であり、当主であった齢17の青年だ。
陸家復興の為、本来は仇である孫呉に参じたが彼らの情や人間性に触れ、今ではその因果の念も少しずつではあるが薄れつつある。

薄暗く頼りない灯りが照らすのは、分厚く丸められた数本の書簡や綴紐が千切れかけているような古書の山。
これらは総て計略について記されている物で、天才軍師と謳われる陸遜が持つ知識の源の一部でもある。
何時だったか、文官に毎晩床につく前に目を通すと話したら、そんなに飽きるほど向き合っていて時に嫌にならないのかと聞かれたが当の本人は気にしていない様子で首を振った。

まあそれには、一応の理由がある訳だが。


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